今では店頭でもよく見かける「鮎(アユ)」だが、かつては“なれ寿司”などに加工されたあと、朝廷に献上される特別な魚だったという。春先には稚魚が天ぷら屋などで多く食べられるが、初夏から夏にかけては成魚が出回る。特に、7月頃の若鮎は骨が柔らかく美味。

ちなみに中国で“鮎”といえばナマズのことを指す。アユにこの漢字をあてるのは日本特有で、『日本書紀』によると、神功皇后がアユ釣りで戦の勝利を占ったとの記載があるためだ。“香魚”とも呼ばれるのは、文字どおり成魚は香りが良いため。稚魚は雑食だが、成魚は川苔だけを食べるベジタリアン。川魚らしからぬキュウリやスイカのような清涼感がある、食欲をかきたてる香りだ。

そんな香魚を楽しむなら、シンプルな塩焼きが一番。味わいをしっかりと引き立たせるため、また皮までおいしくいただくためにも、焼く直前に振る化粧塩は欠かせない。焦げ防止にもなり一石三鳥だ。また多くの鮎に添えられている、蓼酢(たでず)も一緒に楽しみたい。タデの葉の独特の辛味が、塩焼きの味わいや鮎の香りを最大限に引き出してくれる。