no.33 |〈Chicago Comb〉の Model No.1

『スタンド・バイ・ミー』という映画が好きで、折に触れてみかえすようにしている。一番気に入っているのは「太っちょの少年」がほかの仲間に櫛を自慢するシーンだ。別に重要な場面ではないし、ほかに有名なシーンはいくらでもあるのだけど、自分でも不思議になるほど記憶に残っている。だから――というのは短絡的かもしれないが、僕にとって「櫛」は大人の象徴であり、いつか「いいもの」を買おうと密かに計画していた。


光沢感のあるシルバーと、シックな印象のブラックの2色展開。レザーケースも発売されていて、組み合わせも楽しめるようになっている。このタイプの櫛は「男のアイテム」というイメージがあるが、Model No.1ならば性別を問わず愛用できそうだ。

今回紹介するのは〈Chicago Comb 〉のModel No.1だ。とある展示会で出会ったとき、その端正な佇まいを見て一瞬で心を奪われてしまった。聞けば、古き良きアメリカのプロダクトにインスピレーションを受け、誕生したアイテムだという。


公式サイトには「The ultimate hair comb, built to last a lifetime. (一生ものの究極の櫛)」と記載されている。製作者たちの自信とこだわりを感じずにはいられない。

〈Chicago Comb〉は、John LitwinskiとTedd Stromが立ち上げたブランドだ。中学校時代からの友人だった彼らは、アメリカの製造業の衰退に危機感を覚えており、そのことについてよく議論していたという。それから時間は流れ、Johnは有名な法律事務所で、Teddは大手オンラインショップの製品開発部門で、それぞれにキャリアを築いていた。

そんなある日、二人に転機が訪れた。Johnが購入したアパートに、Teddが遊びにきたところから、物語は大きく動き出す。そのアパートは1960年頃に建築されたもので、快適に暮らすにはリノベーションを行う必要があったという。しかし、同年代に作られたキャビネットやブラインドなどは十分に使える状態で、二人は「Made in U.S.A.」の素晴らしさを再認識した。彼らは話し合いを重ね、「失われてしまったアメリカのプロダクト」を蘇らせることを決意。そうして生まれたのが〈Chicago Comb〉であり、Model No.1なのだ。


スタンド・バイ・ミーの舞台は1959年のアメリカ。ちょうどModel No.1の「お手本」となったプロダクトが生まれた時代だ。単なる偶然かもしれないが、僕が惹かれるのは必然だったようにも思える。

僕は飾り気のないものが好きだ。それも、あえてシンプルにしたものではなく、「理想を追求した結果、自然と飾り気がなくなったもの」に魅力を感じる。「それはどういうものか?」と尋ねられたら、最初にこのプロダクトを挙げるだろう。

その端正なフォルムは、精密なレーザー加工と丹念な手仕事によって生み出されている。思わず見惚れるほどの美しさだ。先端は鋭利に見えるが、丁寧に丸められており、安心して使用できる。髪通りも滑らかで使い心地は極めて良好。髪をセットするという毎日の行為を、特別な時間に変えてくれるはずだ。

僕は自宅だけではなく、出張先や旅行先にも持っていって使用している。大切な打ち合わせの前に、鏡の前で軽く身だしなみを整えると、不思議なほどに心が落ち着いてくる。相棒のような存在と言っても過言ではないだろう。


リングの位置やサイズも絶妙。握ったときに中指(もしくは薬指)が自然とリングに入り込み、ホールド感を増してくれる。取り出しやすくなるという利点もあるし、デザインのアクセントにもなっている。実によくできたプロダクトだ。

「12歳の頃のような友人は、二度とできないと思う」

これはスタンド・バイ・ミーで一番好きなセリフだ。はじめて観たときはピンとこなかったが、歳を重ねるごとにその意味が分かるようになってきた。それは人間関係だけではなく、たとえば音楽や小説でも同じことが言えるのではないだろうか。たぶん、その年頃を境になにかが変わってしまうのかもしれない。しかし、「もの」に関しては、そうとも限らないようだ。むしろ、大人になってからのほうが、いい道具に巡り会える機会が増えている気さえする。

さて、これからどんな「友人」と出会えるのだろうか? また、いい相棒とは巡り会えるだろうか? そんなことを考えると歳を取るのも悪くないなと思う。

Chicago Comb Model No.1 ¥5300(税抜)/WEBO
webo-kobe.com

渡辺平日

渡辺平日

雑貨やインテリア、日用品や家具を売ったり買ったりする仕事をしています。健康的で美しく、清らかなプロダクトを愛しています。いつか、百年使っても壊れない丈夫な道具と、百年眺め続けても見飽きない調度品を取り扱うお店を開きたいと思っています。

Twitter:@wtnbhijt