雑誌版『PERFECT DAY』第一号のテーマは発酵。日本の発酵食品に欠かせないものといえば麹だが、今週は日本の麹文化から生まれたスピリッツのお話を。
そもそも麹とは、蒸した米や麦、豆などの穀類に麹菌(コウジカビ)をつけて繁殖させたもののことをいう。麹菌は味噌や醤油、酒造りに欠かせない、いわば日本の食文化の根幹を支える微生物だ。ちなみに、2006年には日本の国菌に指定されている。麦に麹菌をつけたものを麦麹といい、これは麦味噌や焼酎の原料となるのだが、そんな麦麹生まれのスピリッツがある。大分で「いいちこ」を醸す三和酒類がリリースした、「TUMUGI」がそれだ。焼酎造りで培った麹の技と日本のボタニカルのコラボレーションが楽しめるスピリッツである。三和酒類では「世界の蒸留酒(イギリスのジン、ロシアのウォッカ、中南米のラム、メキシコのテキーラ)に匹敵する、日本生まれのスピリッツ」ということで、「TUMUGI」をWAPIRITSとカテゴライズしている。
麹を使った酒造りというと、糖化(麹の酵素によってデンプンをブドウ糖に変える)と発酵(ブドウ糖が酵母の働きによってアルコールに変化する)という2つのプロセスを同時に行う並行複発酵という技法が取られるのだが、これは紹興酒、マッコリ、泡盛、そして日本酒や焼酎に用いられており、東アジア特有のテクニックなのだとか。
ジンやラムといった蒸留酒同様、カクテルベースとして用いられることを念頭に開発された日本ならではのスピリッツは、麦焼酎を思わせる独特の風味と爽やかな酸味のバランスがなかなかユニーク。夏は柑橘を絞ってソニック(ソーダとトニックで割る)スタイルでいただいたり、ロックグラスにきび砂糖とライムを入れ、ペストルでぎゅうぎゅう潰して「TUMUGI」を注ぐという、カイピリーニャ風で楽しんだりしていたが、この季節にぴったりなのがお湯割り。最近発見した飲み方だ。
「TUMUGI」のバリエーションで、スタンダードな「TUMUGI」をさらにホワイトオークの新樽で馴染ませた「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」というものもあるのだが、こちらをお湯割りに仕立てる。これが焚き火やテントといったアウトドアのシーンにばっちりハマる。先日、穂高を登りにいった際にテントの中で飲んでみたのだが、柑橘のクリアな香りがテント中に広がり、そのうえ身体もぽかぽか温めてくれてなんともいい塩梅。晩秋のこの時期はもちろん、標高の高い夏山の夕暮れ時にも使えそう。
あいにくの降雪で丸一日をテントで過ごす羽目になったけれど、停滞ライフを楽しくやり過ごせたのはTUMUGIのおかげ。本とおいしいスピリッツがあればたいていのことはやり過ごせるなと思った、晩秋の穂高の備忘録でした。