3、4年前、アウトドアで飲むのが好きな仲間と、SOTONOMOという酒飲みユニットを立ち上げた。屋外の最高のロケーションに出かけ、その時の季節や場所、天気、時間帯にフィットする極上のお酒を飲みあげる、ただそれだけを追求するユニットだ。わざわざユニットとしてアクションを起こす必要はなかったが、仕事や家族サービスに追われるさなかにはるばる山や川、海まで出かけ、白い目で見られずに朝から飲むには、何かしら大義名分が必要だったのだ。

その大義名分をもっともらしく見せるため、年に1、2度、イベントを行ったりもする。都内のビルの屋上や、鴨川の棚田を見下ろすハーブ畑、電気・水道はおろか、携帯の電波さえも届かないというハードコアな長野のキャンプ場……。今年は伊豆大島で「島飲み」をテーマにしたイベントを行うはずだった。伊豆大島の海と夕暮れを一望できる絶好のロケーションで、潮風に吹かれて大好きなシェリーを飲もう!という内容だ。

島でイベントを行うのは初めてだったので、現地へ何度か「視察」という名の遊びに出かけた。シェリーとはスペイン南部にあるカディス県のヘレス中心で造られる酒精強化ワインのこと。シェリー独特の風味やキレがびっくりするほど潮の香りにマッチするので、この仲間と海エリアで飲む時はシェリーを2、3銘柄持っていく。竹芝桟橋から伊豆大島へ向かうフェリーの中で2、3本を空けてしまうほど、私たちはシェリーに目がない。フェリー用とは別に島で飲もうと取っておいた箱の中にも手をつけてしまうから、始末に負えない。

フェリーの中でシェリー、朝食とともにブラッディメアリー(ブルース・ウィルスも惚れ込んだという「ソビエスキー・ウォッカ」に島のフレッシュなトマト、友人のバーテンダーが開発したブラッディメアリーソルトを合わせて)、シュノーケル・ポイントとして知られる透明度の高いビーチでは水浴びをしながらジントニック(アマルフィ&シチリア産のレモンピールをインフュージョンした、イタリアの「マルフィ・ジン」)、ハイキングに出かけた三原山の山腹ではラム(キューバのホワイトラム、「サンチャゴ・デ・クーバ カルタブランカ3年」をソーダで割って)と、シーンによって飲み分けるのだが、中でも秀逸だったのが島随一のたこ焼き職人(通称「神楽のやっちゃん」という)と囲んだテーブルでのシェリーだった。

海沿いの林の中にある彼の家に招かれ、庭にあるテーブルで特製のたこ焼きをごちそうになった。元バーテンダーの彼はシェリーが大好きで、シェリーとマリアージュする至高のたこ焼きを開発したという。潮風が心地いい青空の下のテーブルで振舞ってくれたのは、島の青唐辛子を効かせた和風ダレに島のりを散らしたもの、酸味のある梅ダレにかつおぶしをまぶしたもの、フレッシュなおろしポン酢とたっぷりのネギ、などなど。ラムもジンもウォッカも、この島で飲んだすべてを吹っ飛ばすほど、このペアリングは秀逸だった。酔っ払い仲間の一人はこの組み合わせに興奮してしまい、木登りをしていた木から落ちたほどである。

あいにくの天気でイベントそのものは実現しなかったけれど、仲間内で満喫させてもらった離島×シェリー×たこ焼きのマッチング。来年こそイベントを実現させ、誰かとこの体験を共有できますことを……。

倉石綾子

女性誌編集部を経てフリーのライター、エディターに。旅、お酒、アウトドアを主軸にした記事を雑誌、ウェブメディアで執筆する。アウトドア×日本の四季× 極上の酒をコンセプトに掲げる酒呑みユニット、SOTONOMOを主宰(facebook.com/sotonomo/)。著書に『東京の夜は世界でいちばん美しい』(uuuUPS)。