特集「クラフトマンシップを巡る旅」にあたり、モノへの愛着について考えてみよう。今回は暮らしの道具として愛されてきた「民藝」を考えの切り口として、明治大学理工学部准教授の鞍田崇氏の話を元に編集した全5回のコラム内で、モノをより深く楽しみ、向き合って味わうためのヒントを探る。

Q:土地に根付いた暮らしの道具を扱うセレクトショップが、少し前から地方にでき始めているような気がしています。私自身の実感では日本の焼きものの産地に紐づいているような気がしているのですが……?

A:そうですね。ただ、焼きものの産地に限らず、かと。木工や金物がメインの産地でも同様の動きがありますし。また、産地ではないけれども、仕事と生活が一体となった土地の気配が感じられる、古い街並みの残る土地もそうです。いずれにせよ、従来のような消費地だけではなく生産地、都市だけではなく地方で、手仕事を届けようとしている人たちが増えていますね。
こうした傾向の端緒はすでに80年代後半にチラホラありますが、特にいまから20年前の2000年前後に加速度が増したというか、次々と気の利いた生活道具を扱うお店ができてきました。しかも、申し合わせたわけでもないのに、わざわざ車で行かなければいけないようなところに、蜘蛛の子を散らすようにパーっと。そうした動きが定着したのが、この10年。そういうこともあいまって産地への吸引力が強まっている「いま」なんじゃないでしょうか。

Q:産地のお店では、店主の目利きによって選ばれた品々が素敵ですよね。他にも、魅力を挙げるとしたらどういうところだと思いますか?

A:字面や二次元では伝わりきらない心地よさや空気感を伝えてくれるとこかな。訪れる人にとっては、実際に土地の空気感を共有しながら物を手に取ることができるわけで。そこで手に入れた物を土地の空気感ごと家に持ち帰ってみると、同じ部屋なはずなのに昨日までとは何かが違うハズ。なんといっても、心地よさって、人によって感じ方が違いますしね。自分なりの心地よさを確かめられるのが一番の魅力かもしれません。

Q:いいですね、自分なりの心地よさって。

A:でしょ? 住まいを探す時のことを想像してみてください。不動産屋さんでは、あいかわらず「○○駅から徒歩○分、○平米、築○年、風呂つきベランダ有りetc……」という利便性を伝える情報ばっかり。でも、それだけでは心地いい部屋かはわかんないですよね。心地よさは、現地を訪ねて自分で感じて確かめるしかありません。物も同じ。大事なのは自分なりの心地よさの角度を探ること。それがわかると、自分の輪郭が見えてくる。それってほんとうに楽しいことだと思うんです。

Q:最後にもう一度民藝についてお尋ねさせてください。いま私たちが民藝を通して得られることって何でしょうか?

A:生活が、ひとごとじゃなく、わがごとになること、かな。「これは自分にとって大切なもの」だと、日々の時間に対して実感できるような。ともすると僕らの日常はどこかよそよそしくて、リアリティが希薄になりかねない。その一因は、繰り返しになりますが、いたずらに「ゴール(成果)」だけ求めているというか、求めさせられているから。ゴールを得たのはよいとしても、「ほんとうにそれが欲しかったものなの?」って自問自答してしまう現実があるなかで、民藝は、そんな現実への距離感を埋めてくれる。キーワードはゴールだけじゃなくプロセスへ。そこには、便利で美しいだけじゃない、みなさんなりの日々のいとおしさを見つけるきっかけが、きっとひそんでいると思うんです。

第一回 「いとおしさ」〜「用」と「美」の先に在るもの

第二回 手始めは産地を訪ねること

第三回 民藝の「藝」の意味

第四回 感覚で捉える民藝

鞍田崇

鞍田崇

哲学者。1970年兵庫県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。現在、明治大学理工学部准教授。近年は、ローカルスタンダードとインティマシーという視点から、現代社会の思想状況を問う。著作に『民藝のインティマシー「いとおしさ」をデザインする』(明治大学出版会2015 )など。
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