空間全体を使ったインスタレーションを得意とするフローリスト、座間アキーバ。異色のキャリアと既成概念にとらわれない自由な発想から生み出される、都会的な装花が注目されている。
東京の郊外にあるマンションの一室。自然光がさんさんとふり注ぐここは、ブルーボトルコーヒーの装花などを手がける注目のフラワーデザイナー、座間アキーバのアトリエだ。
花を束ねることは、どこか絵を描くことに似ているという。空間というキャンバスに、季節のボタニカルがまとう色を使って心のままにラインを引く。テーマは、葉や花びらが織りなすグラデーションと季節感。自らの作品に取り入れるのは季節の花材のみ。二十四節気、あるいは七十二候というように繊細に移り変わる日本の四季を、色の組み合わせで表現する。


「例えば、春は生命の息吹を感じさせる淡いパステルの球根花材。夏は新緑を象徴するみずみずしいグリーンのグラデーション、夏から秋の端境期には強い日差しを浴びてくすんだ葉色をグリーンに混ぜこんで。秋は熟したベリーや色づいた紅葉など、こっくりと芳醇な色合いに。そうした色調をベースに、その時々のキーカラーをアクセントに挿していきます」
現代の都会の暮らしにあって季節感を間近にする体験は得難いもの。だからこそ、草花を飾る。「旬の草花があるだけで季節に寄り添うことができる。それが生花の醍醐味」と考えている。


クイーンズの自動車整備工からモデルへ、
そしてフラワーアーティストへの転身
東京生まれ、シアトル育ちの座間さんの前身は、アジア各国で活躍したファッションモデル。その前はニューヨークのクイーンズで自動車整備工をしていた。異色の転身を重ねる座間さんだが、それぞれのステージで培ったスキルの一つ一つが現在の活動に生きている。

「整備工時代の技能があるから部屋のDIYはお手の物。ファッションの世界に身を置いていたから、今のトレンドや時代の気分を俯瞰で見ることもできる。だからこのアトリエも、自分でリノベして自分好みの色や質感にしつらえました」
そんな彼が現在、力を注いでいるのが、ボタニカルのある空間をまるごとディレクションすること。
「お気に入りのベースに花を飾ったり、多肉やエアプランツを什器にからめたり。たったそれだけで無機質になりがちな都会の暮らしにみずみずしさが生まれる。だからこそ、草花のある暮らしを空間から多層的に見せていきたい。インテリアやデザインから花に興味を持ってもらってもいいと思うんです」
そんな座間さんが作ってくれたのは、初秋をイメージした特大のアレンジメント。シックな色合いの秋色アジサイやトルコキキョウ、アスター、バラ、大好きなアストランティアの花々を、ユーカリや沖縄のシダ、マウンテンミント、カズラ……生き生きとしたグリーンのグラデーションで縁取った。

「特定のスタイルを持たない自分だから描けるボタニカルの世界を、現代の暮らしに提案していきます」

PERFECT DAY 01号からの転載記事。雑誌を購入する。