特集「クラフトマンシップを巡る旅」にあたり、モノへの愛着について考えてみよう。今回は暮らしの道具として愛されてきた「民藝」を考えの切り口として、明治大学理工学部准教授の鞍田崇氏の話を元に編集した全5回のコラム内で、モノをより深く楽しみ、向き合って味わうためのヒントを探る。

Q:それにしても民藝というと、歴史や知識を知っていなければいけないような気がして、なんだか小難しく考えてしまうのですが……。

A:そう感じている人、多いですよね。紹介されるのも、実際古めかしいものばかりだし。でも、ビビらず、まずは見てほしい。忘れていた何かが呼び覚まされるような、そんな感覚を覚えるかもしれません。それが何より大事だと思うんです。

Q:それってどういう感覚なんでしょう?

第1回で、日本民藝館の館長就任直後の深澤直人さんのインタビューにふれましたよね。あらためて民藝館のコレクションを見た深澤さんが、「えも言われぬ魅力」を感じたっていう。たとえば、そういう感覚といってもいいかもしれません。
ちょうど5年前、深澤さんが館長としてはじめて企画された展覧会『愛される民藝のかたち』で、「愛らしい民藝」と題された記念対談の相手に招かれました。タイトルにある「愛される」「愛らしい」の意味をお尋ねしたところ、ほんとは「かわいい民藝」としたかったって。実際、展覧会の趣旨文では「かわいい」って言葉を使って、深澤さんが考える民藝の「かたち」が説明されていました。ただ、関係者のなかには民藝を「かわいい」と表現することへの抵抗もあったようで、タイトルに掲げるのは控えたけれども、深澤さんの意図としては、モノを見た時の直感的な反応、感嘆詞としての「カワイイ」のつもりでもあったんだと聞いて、ナルホドと思いました。
瞬間的に「ヤバイ」「カワイイ!」って言ってしまう日常の一コマってありますよね。その反応の素直さが大切であり、心に響いたことが「えも言われぬ何か」に通ずることだと思います。ブランドや情報でモノの良し悪しを判断するのではなくダイレクトに響く感覚。民藝の基本はその感覚を呼び覚まし、深めていくことだと思うんです。

Q:感覚を呼び覚まし、深める・・・・・・

A:今回の特集テーマの「クラフトマンシップを巡る旅」って、自分なりの「かわいい」を深めに行くことでもあると思うんです。仰々しい気持ちで考えすぎず、素直に「かわいい」を見つけに行くっていうぐらいでいいのでは? 実際に足を運びモノづくりの現場の空気感に触れると、当初思っていた「かわいい」よりも一歩踏み込んだ感覚を得ることもあるかもしれません。でも、それも重々しくなっていくというより、視界が広がる感じ、どこか爽やかで風が抜けるような体験なんじゃないかな。

次回は最終回。公開は、3/13予定です。

第一回 「いとおしさ」〜「用」と「美」の先に在るもの

第二回 手始めは産地を訪ねること

第三回 民藝の「藝」の意味

第五回 民藝の「藝」の意味

鞍田崇

哲学者。1970年兵庫県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。現在、明治大学理工学部准教授。近年は、ローカルスタンダードとインティマシーという視点から、現代社会の思想状況を問う。著作に『民藝のインティマシー「いとおしさ」をデザインする』(明治大学出版会2015 )など。
takashikurata.com/