140年余の歴史を歩み続ける化粧品メーカー資生堂が、創業の地である銀座に『SHISEIDO THE STORE』を1月にオープンした。

伝統ある資生堂の知見や文化を肌で体験できるこの場所では、化粧品販売をはじめ撮影サービス、美容レッスン、カフェなど、1階から4階まで様々なコンテンツを提供している。そして、4階には「FOODS」「GOODS」「BOOKS」「EVENTS」と、4シーンで展開されたコミュニティスペース「SHISEIDO THE TABLES」が常設。食や知を通し内側からの美を探求するカフェ&イベントスペースとなっており、カフェでは「古来種野菜」たちを使用した食事を味わうことができる。

古来種野菜とは「伝統野菜」、「在来種」、「固定種」と言われる野菜の総称であり、農家の手によって種が代々受け継がれてきた野菜たちのことであるという。この古来種野菜をとおして、姿・身体・心を整えるために独自の時間軸である5つの季節(芽吹き・新緑・花ひらく・結実・蓄え)にあわせたおもてなしのイベントが不定期で開催される予定だ。今回はトークショーと食体験、そして食のスペシャルゲストを招いての先行試食会が行われた。

野菜の一生をあますことなく頂く

試食会では、「古来種野菜」の名付け親である八百屋〈warmerwarmer〉の高橋一也さん、「五季膳」のメニュー開発に関わるフードデザイナー〈モコメシ〉小沢朋子さんが語り手となり、スペシャルゲストには9月20日発売された本誌「PERFECT DAY」05で鴨川の農園を愛車のジープとともに出演していただいた<GRAND ROYAL green>の井上隆太郎さんが登壇し、聞き手の岡田カーヤさんとともに食事を楽しみながらゆっくりとトークが繰り広げられた。


メニューのメインである愛知縮緬南瓜(あいちちりめんかぼちゃ)。

季節ごとに開催されるこのイベントでは「SHISEIDO THE TABLES」が考案する一汁三菜メニュー、「五季膳」を頂くというもの。野菜の一生である「種、根、葉、花、実」をあますことなく丁寧に調理し5つの器へ盛り付ける。ただ食事をするだけでなく、食の生産や流通に関わる人たちの話に耳を傾けながら旬の食材を深く味わうことができる贅沢な食体験である。

左上:語り手の高橋一也さん、小沢朋子さん 左下:ゲストの井上さん、聞き手の岡田カーヤさん

カーヤさん: 「そもそも古来種野菜ってなんでしょうか?」

高橋さん:「古来種野菜というのは、代々種を受け継いでいる野菜です。全国に1214種類の野菜たちが残っていると記録されています。大根110種類、なす67種類、かぶ78種類、きゅうり50種類、つけな83種といった多くの野菜たちが農家さんによって継承されている野菜です。その野菜は日本の風土や気候に合わせて育ったからこその濃厚な味わいを特徴とします。中には名前のないものや、絶滅寸前といった野菜もあるんです」

見た目の問題や安定供給できないなどの理由で、何年も市場に出回らなかったりする野菜や種たちが今でも数多く残っており、都市化が進むにつれ里山に忘れられている野菜たちをこの100年途絶えさせないために、野菜や農家を守りたいという思いであると語ってくれた。

カーヤさん:「メニュー考案はどうやってされているんですか」?

小沢さん: 「古来種野菜は安定供給できる野菜ではないので、直前にならないとメニューが決められません。ランチは「古来種野菜のお弁当」と「古来種野菜のパンプレート」の2種、(南からやってくる)旬を追いかけながらメニューに落とし込んでいます。いずれも日本全国の農家の人たちが自家採種をして種を守ってきた野菜を楽しんでもらおうと思い考案していますが、自然が相手なのでやっぱり収穫できないとおじいちゃんおばあちゃんから直前に言われることもあります(笑)」

五季膳メニュー 
ー結実の季節ー
序の茶
実の器 お椀 <南瓜のスープとトマトのタルカ>
根の器 ごはん <ジンジャーターメリックライス>
種の器 主菜 <海老といんげん芥子のみのソース>
葉の器 副菜 <蒸した南瓜の葉っぱとミントの味噌>
花の器 はしやすめ <金針菜のオイルマリネ>
豆皿 おくちなおし <琥珀糖>
結の茶
8月24日(金)〜10月16日(火)、土日祝限定


「五季膳〜結実の季節〜」


実の器。愛知縮緬南瓜を使用したスープ。南瓜のスープとトマトのタルカ。


金針菜。試食会ではオイルマリネとして登場。


葉の器。蒸した南瓜の葉っぱとミントの味噌。(山梨の在来種白味噌)

 食事することでニュートラルに戻れるような場所にしたい

高橋さん: 資生堂さんからお話を頂いた時に、この「SHISEIDO THE TABLES」をどういう場所にするか2年半前から考察しました。資生堂という化粧品にプラスするエッセンスはどんなものなのか。そこで考えついたのが食事にプラスするだけでなく、ニュートラルに戻れるような場所にしたいと考え精進料理の精神を取り入れました。丁寧に調理した野菜の命を頂くということは、どういうことなのか。例えるならば洋食は油絵を重ねていくような足し算、和食は引き算で作られているとすればこの御膳は因数分解してあるような感じ、足し算でも引き算でもない、この野菜たちを通して身体と心をニュートラルにすることができるのではないかなと。

旬な古来種野菜たちに寄り添いながら、代々受け継がれてきた野菜と農家の人たちの声に耳を傾ける高橋さん。他者を理解することが自らを見直すきっかけとなり、より一層自分が磨かれていくと語った。

季節を楽しむボタニカルソーダ

食事の最後には、千葉の鴨川でハーブやエディブルフラワーを生産する井上さんから、金木犀のシロップをソーダで割ったボタニカルソーダが振る舞われ、食事の後に優しくも清々しくなるような味わいを楽しめた。季節ごとの異なるボタニカルソーダは『SHISEIDO THE TABLES』で体験可能だ。


※写真は季節のボタニカルソーダ・レモンバーベナ(シーズンによって内容は変動します)

普段あまり目にすることのない古来種野菜を使った料理や、食の生産者の声を傾聴することが出来、食への関心と意識を高めてくれそうな体験ができるSHISEIDO THE TABLES。次回開催される10月のイベントに是非足を運んでみてはいかがだろうか。応募は以下より。

五季膳の会 〜蓄えの季節〜★種、根、葉、花、実。「野菜の一生」を、作り手の物語とともに味わう夜

【五季膳の会 〜蓄えの季節〜】
SHISEIDO THE TABLESのために季節の甘いものを手がける「菓子屋 ここのつ」の溝口実穂さんをゲストに、
お菓子をめぐるお話をうかがいます。
日時 10月18日(木)19:00-21:00
参加費 5,000円(税抜)
定員 28名
※定員に達し次第締め切り 参加申し込みは〈SHISEIDO THE TABLES〉WEBサイトにて

https://www.thetables.jp/events/events-943