年末年始は忘年会だのパーティだのが続き、ついつい飲み過ぎてしまいがち。身体がだるいとか胃腸の調子がよくないとか、不調を訴える人も少ないとか。かくいう自分も内臓の強さには自信があるほうだが、それでも背中や腰を押してもらうと、びっくりするほど腎臓や肝臓のあたりが硬くなっている。そんな時はお酒の飲み方も養生モードに入る。この時期、頼りにしているのが薬酒だ。

数年前、都内で数軒の「薬酒BAR」を営む桑江夢孝さんに取材した。薬酒BARというのは、医食同源をベースにした漢方薬酒専門のバーのこと。以前から三軒茶屋のデルタ地帯にあるお店には足を運んでいたもので、一体どんな人が、どんなきっかけで薬酒専門のバーを始めたのだろうと興味を持っていた。

桑江さんはご家族の病気をきっかけに薬膳や中医学を学んだという。そうした知識をベースに食生活を変えることで根本的な体質改善を図り、ついには西洋医学に見放された難病を克服してしまったという、すごい略歴の持ち主だ。そしてその食生活には、薬酒、つまり生薬を漬け込んだお酒も欠かせなかったという。
実際、桑江さんに身体の不調を話すと、薬酒の入ったガラス瓶がずらりと並ぶバックバーからお勧めを提案してくれる。気分は調剤薬局でのカウンセリングだ。ハーブを漬け込んだリキュールは、中世ヨーロッパの修道士により薬として作られていたというが、まさにその感じ。

「冬は腎が弱りがちだから、コンブやワカメなどの鹹味で身体を潤して、ネギやニラなど温める食材をとるといいですよ」、なんて言いながらおすすめしてくれたのは、アフリカンジンジャーやバオバブの樹皮、そしてクレインズ・オブ・パラダイスという、西アフリカに生息するショウガ科の多年草の種子をブレンドした薬酒。これをソーダで割っていただく。スパイシーなショウガにエキゾティックな香りが効いていて、いかにも温まりそう。

このバーがすごいのは、自宅で仕込む薬酒についてもあれこれと指南してくれること。手軽に造れるよう、数種の生薬をセットにした薬酒キットも販売している。自宅で清潔な瓶にばベーススピリッツとキットの中身を入れ、数週間寝かせるだけで自家製薬酒が完成する。ベーススピリッツは蒸留酒であればなんでもいいそうだが、生薬の風味が移行しやすいのは甲類焼酎だとか。

私も早速、自宅にあったナツメやウイキョウ、シナモン、お土産でもらった高麗人参で自家製薬酒を造ってみた。ナツメの甘みが効いていて、ソーダ割り・トニック割りもいいけれど、お湯割りがいい感じ。スターアニスを入れてもいいのかも。

「薬酒バー」に行けばそれぞれの生薬の効能も教えてくれるし、ユニークなオリジナルの薬酒も飲ませてくれる(例えば、ナイトキャップにぴったりの、デカフェベースのコーヒーリキュール「グッド・スリープ・コーヒー」とか)。面白い組み合わせを発見すると、これも家で試してみよう!なんてモチベーションが上がる。ちびちび飲むこともあって悪酔いしないし、身体もポカポカ温まる。失敗もあるけれど、あれこれ試行錯誤するのも楽しいし、次はベーススピリッツに秘蔵のアレを使ってみよう、なんてDIY精神をくすぐられるのも嫌いじゃない。

というわけで冬にぴったりの薬酒のススメ。1月22日発売の『PERFECT DAY』本誌のスパイス特集も参考に、薬酒ライフを試してみてください。

倉石綾子

女性誌編集部を経てフリーのライター、エディターに。旅、お酒、アウトドアを主軸にした記事を雑誌、ウェブメディアで執筆する。アウトドア×日本の四季× 極上の酒をコンセプトに掲げる酒呑みユニット、SOTONOMOを主宰(facebook.com/sotonomo/)。著書に『東京の夜は世界でいちばん美しい』(uuuUPS)。