週替わりでプロダクツを紹介する連載コラム
今週の推薦人は透明コレクターのばくよし

no.31 | 〈Echo Park Pottery〉のマグカップ

スイムスーツ・デパートメントとの出会いは、雑誌の上だった。その雑誌では数々のお店が紹介されていたが、バスハウス(スイムスーツ・デパートメントの店舗はバスハウスと呼ばれる)はひときわ私の目を引いた。掲載された小さな写真から、玄人なもの選びのセンスが多分に伝わってきた。国籍・年代問わず並べられた品物の中に、運命のひとつが紛れているのではないか、と思わせる雰囲気があった。バスハウスは、私の「行きたいお店リスト」に入った。

ある日、都内に用事があった。終わった時間は15時。ふと、バスハウスへ行けるなあと思い、タクシーで神宮前へ向かった。大通りでタクシーを降り、目的地へ向かう。ナビではこの辺のはずだ。一軒一軒を眺めるが、どの建物なのかまったくわからない。太い通りに戻ったり、住宅街の奥まで歩いたり、ナチュラルローソン神宮外苑西店の周りをぐるぐる歩く。埒が明かないので、電話をかける。

店員さん「はい、バスハウスです」

「そちらへ伺いたいと思っているのですが、入り口はどちらでしょうか。いまはローソンの前にいます」

店員さん「お電話ありがとうございます。ローソンのどちらの出口ですか?」

「あ・・・えーと・・・太い通りでは無い方です」

店員さん「でしたら、通りとは逆方向に進んでいただき、左手の建物の駐車場から入れますので」

「わかりました。ありがとうございます。これから伺います」

店員さん「お待ちしております」

それらしき建物に到着。成程、すぐに発見できない訳だ。住宅街の一部としてすっかりなじんでいる。半地下の駐車場から、エントランスに入る。こんなふうに、場所を知っている人しかたどり着けないなんて、招待制のパーティのようでいいかも、と思った。階段を上り、お店の扉を開ける。

スマートだがどこかフォークを感じるアートピースがずらり並んでいる。先ほど電話で対応してくれたお姉さんに挨拶をした。

ここで、絶対に見たかったものがある。それは〈Echo Park Pottery(エコパーク・ポッテリー)〉というマグカップだ。ある作家の、ユニークなかたちの焼き物で、釉薬の美しさが一番の特徴だ。

「こちらのレーベルは、メンフィスのメンバーのひとりが主催していて、ロサンゼルスのスタジオで作られてます。底面に生地があてられて模様がついているんです。ひとつひとつ違って面白いので見てみてください」

と、店員さんが説明してくれた。

ガラスケースには10個ちかくのマグカップが並んでいた。この中で一番しっくりくるものを持ち帰ろうと決めた。手に取り観察する。色の組み合わせが同じでも、釉薬の流れ方がみなちがう。

ふたつまで絞ることが出来た。どちらもモノトーンと淡いピンクの組み合わせで、デザイン自体は同じだ。釉薬の表情だけが異なる。一方は、ぽてっ、とろっとしたまるみあるもの、他方は繊細な流れが浮かび上がったかっこいいもの。手に取って、置いて、遠くから、また、近くから見て、ウーンと唸っていると、店員さんが話しかけてくれた。

「手に持っている感じでは、こっちがしっくりきてましたよ」

と、まるみあるほうを勧めてくれた。興味深く受け入れつつ、もうひと悩みを経て、助言通りまるみあるほうを持ち帰ることに決めた。



服を選ぶように、日用品を人に見立ててもらうって、いいかもしれない。第三者に似合うと言ってもらった服は、なんともしっくりきて、長く使っている気がする。もの選びに正解・不正解はないけど、「しっくり」は一つの基準だと思う。このマグカップとも、末永く一緒に居れる気がした。

とっても素敵な気分で店をでた。割れ物、それもお気に入りを運ぶ作業は、非常にスリリングだ。一度も使うことができずに、割ってしまう未来を想像する。今日という日の思い出が消滅してしまうようで恐ろしい。悪い想像が実現してしまうのではと、はらはらした。しかし、悪い妄想はたいてい当たらないものだ。無事、マグカップを自分の部屋に飾ることができ、ほっと息をついた。

ばくよし

ばくよし

一人暮らしを始め、日用品と家具に目覚める。趣味は、インテリア誌を読むことと、部屋の写真を撮ること。Twitter:
@bkys

バスハウス
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