「腰が曲がるまで長生きできるように」という長寿の願いをこめて、車海老のうま煮がおせち料理の一品に数えられる。真っ赤な海老はめでたさの象徴。鮮度の落ちた海老では赤が綺麗に出ず、黒ずむこともあり、シンプルなうま煮にした場合は臭みも気になる。やはり活きたままの海老を調理するに限る。

なにより、この行為自体にも意味があるように思える。年に一度いきいきとした暴れる海老と対峙し、生き物を調理することで、食材をいただくという感謝の気持ちが芽生える。味付けや調理法はおせち料理の中では最もシンプルながら、緊張感は一番。だし汁を煮立たせ、酒、醤油、みりんで濃いめに味付けし、おがくずをよく洗い流した活きのよい車海老をトングで1尾ずつしっかりと掴みながら、だし汁の中に入れて動きがなくなるまでそのまま数秒待ち、手を放す。2~3分弱火で煮たら火を止めてそのまま冷ます。数日かけて楽しむ場合は煮汁ごと氷水にあてて急冷してから保存するとよい。

活きた海老からとれただしも驚くほど美味しいので、余さずに茶碗蒸しのだしとして有効活用したい。卵1個に対してうま煮の煮汁を水で適度に割ったものを120ml程度用意し、お好みの具材と混ぜ合わせて蒸す。えびの旨みが効いた上品な茶碗蒸しは、絶品である。