いま私が働いている会社はニューヨークのダウンタウンのビジネスディストリクトの一角にあるWoolworth Building(写真)の中に入っている。この建築は、1913年にCass Gilbertによって設計され、1930年まで世界一高い建物でありつづけた。外観のテラコッタ、ゴシック様式の頭頂部などヨーロッパの宗教建築を思わせるような荘厳さをもっている。高層ビルが周囲に立ち並んだ現在でも、その存在感は圧倒的だ。そして特にロビーのヴォールト天井に張られたモザイクタイルは、入った瞬間に言葉を失うような美しさを持っている。ここだけはまるで、1913年のニューヨークの時間が止まってしまったかのようである。

このエリアは、2001年に起きた911のテロを境に大きな変貌を遂げた。テロのターゲットになったワールドトレードセンターのツインタワーは、日系アメリカ人のミノル・ヤマサキによるものだった。その当時、ぼくがメディアでみたツインタワーはなんとも普通な四角い二本のビルの印象しかなかった。しかし、このエリアで働くことになり、気になってビルのデザインをよくよく調べてみると、いかに細やかなデザインがされているかに驚かされた。

上部では垂直な支柱が、地面に近づくと、三本が一本の太い支柱へとまとめられる。それはまさに木の枝のような有機性を持っている。そうしてつくられた、支柱の間の大きな隙間は、ロビーのインテリアデザインへとつながり、外部から豊かな光を取り込む。その光が内部の大理石、そして天井の曲面パネルへと反射し、ビジネスの中心地にふさわしい、透明性を持ちながらも、抑制のきいた装飾が施された緊張感のある空間になっている。


新しく建てられた、現在のワン・ワールドトレードセンターがそのような空間をつくりだしているのかはわからないが、2016年に完成した、その隣に建つスペインの建築家Santiago Calatrava設計の「oculus WTC」は、現代のビジネスディストリクトにおいて圧倒的な建築の力を示している。建物の機能としては特になく、駅と周囲のビルをつなぐ広場のような役割だ。

しかし、構造と装飾を等価に扱った、鉄骨のリブは、外部からは飛翔する物体のようなシンボル性を、そして内部には光を砕きながらも柔らかく取り込む効果をつくり出している。いつもここを訪れると、新しい建築であるにも関わらず、時間を超越していく空間の強度を感じる。Woolworth Buildingの中に1910年代のアメリカ、ニューヨークの時間が流れているように、Oculuc WTCはいま現在のこの場所の時間を後世へと届けていくことであろう。

隈太一

隈太一

建築家。1985年東京都生まれ。2014年シュツットガルト大学マスターコースITECH修了した後に、2016​年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了​。2017年よりアメリカ、ニューヨークの設計事務所勤務。素材の可能性、組み合わせによる空間、場所のデザインを専門とする。代表作に、カーボンファイバーと伸縮性のある膜を用いた、新素材の組み合わせによるパビリオン「Weaving Carbon-fiber Pavilion」、自身が運営するレンタルキッチンスペース「TRAILER」のインテリアデザインなど。

instagram:@taikuma

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