ニョーヨークで“正しいラーメン”を食べた。美味しいものはなんでもあるこの都市だが、なかなか会計を見て安いなと感じることは少ない。特に、ラーメンは日本で散々安くて美味しいものを食べてきただけにそう感じることが多い。

つい先日、QueensのLong Island City にオフィスを移転した、ファッションブランドの「Engineered Germents」のサンプルセールに行ってきた。もともとオフィスのあったのはManhattan、MidtownのGarment Districtのエリアだったが、賃料の高騰によって、移動することになったそうだ。新しい場所は、コンドミニアムなどの開発が少しずつはじまりつつある倉庫街の一角という場所だ。散々買い物をした帰りに、是非とオススメされ、「Ramen Shack」というラーメンに行ってみた。店の外にはPOP UPという看板が出ていて、ここは仮の場所なのかもしれない。店の中も小さなカウンターと窓に面したテーブルがひとつあるだけでこじんまりとしている。

その簡単な佇まいとは裏腹に、ラーメンを食べたらびっくりした。澄み切った塩のスープ、やや太めの麺、ほんのり柑橘系の味がする鶏肉のチャーシュー、上に乗った白髪ねぎ。久しぶりに「正しい!」とガッツポーズがでた。そして、その価格もかなり良心的で、ぼくは卵と追加のチャーシューをトッピングしたが、シンプルなラーメンは9ドルからある。もちろん、日本の値段からしたら高めであるが、ニョーヨークのスタンダードからしたら安いし、このクオリティである。


このLong Island Cityは、MoMaの「PS1」ができたあたりから開発が加速して、面白いものが増え始めている。Manhattanに比べ、地価がまだ安く、Grand Centralなどの主要な駅からもアクセスがよい。そんな理由でここがBrooklynのようになる日もそう遠くはないとも言われている。

ぼくのオススメは、ラーメンを売りとしたレストラン「Takumen」で、何を食べても美味しく、アメリカの小屋のようなつくりのインテリアもとても居心地がいい。また、2016年にSage and Coombe Architectsによってリノベーションが完成したIsamu Noguchi Musuemもとてもいい。特に増築された、コンクリートブロックでできた半屋外のスペースが素晴らしい。イサムノグチの滑らかでダイナミックな石の曲面は、いわゆるホワイトボックスで見るよりも、ラフなつくりで、内でも外でもない空間で見るのに適しているような気がした。それはまさに、テンポラリーで簡易的なつくりの店で食べる洗練されたラーメンの味のようでもあった。

隈太一

隈太一

建築家。1985年東京都生まれ。2014年シュツットガルト大学マスターコースITECH修了した後に、2016​年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了​。2017年よりアメリカ、ニューヨークの設計事務所勤務。素材の可能性、組み合わせによる空間、場所のデザインを専門とする。代表作に、カーボンファイバーと伸縮性のある膜を用いた、新素材の組み合わせによるパビリオン「Weaving Carbon-fiber Pavilion」、自身が運営するレンタルキッチンスペース「TRAILER」のインテリアデザインなど。

instagram:@taikuma