山の生活文化を掘り起こし、実践し、共有する

山形市の文化的な中心地は駅周辺でなく、旧市街である市庁舎周辺に広がっている。お洒落なワインバーやセレクトショップ、昔ながらの喫茶店などが集まるこのエリアに一際目を引くリノベーションビル〈とんがりビル〉はある。

地元のデザイナーや文化人のコミュニティから生まれたこの複合施設の一角に佇む不思議な雑貨屋〈十三時〉には、熊の剥製や毛皮、出所不明の同じく熊の置物などに混じって、作家もののクラフトや自然と動物をモチーフにしたTシャツ、手ぬぐいなどのオリジナルグッズ、手作りのふきのとう味噌や天然のはちみつなどが置かれ、一見脈絡がない。もちろん県産のものが多いのだが、地域に縛られているわけでもなく台湾の先住民族・アミ族のブレスレットや耳飾り、ボルネオ島のカゴなども置いてある。

しかし店全体はポップさと古めかしさが同居した独特の一体感に満ちている。
さながら日本と日本人の心の古層をちりばめたスペシャリティショップ。このユニークな店を営む坂本大三郎さんは現役の山伏だ。

「基本的なテーマには自然と人というのがあって、その関わりの中から生まれてきたものを置きたいなと思っています。あとは自分が生活していく中で、実際に出合ったものを置いているので、必然的に山形のものが多くなっていく。けれど、そこにこだわっているわけではなくて、旅先で見つけてきたものも結構あります。一点ものも、もちろん多くて、売り物じゃないものもあるんですよ(笑)」

30歳で山伏になる

イラストレーターであり文筆家であり、そして山伏でもある坂本大三郎さんが山形を訪れたのは30歳になった頃。

「もともと千葉で生まれて、20代の頃は東京に住んで現代美術のギャラリーで働いたり、漫画家のアシスタントをしたり、イラストを描いて生活していました。30歳の時に偶然というか、好奇心から山形に山伏という存在がいて、その修行を体験できるというのを聞いて参加したのが山伏になるきっかけです」。

実際に体験してみると辛いはずの修行の中にそこはかとない面白さを見出した。

「この面白いというのは色々調べていったら理由があるんだろうなと思ったんです。それで、大学の先生に話を聞きに行ったり、独自に調査を進めるうちに山伏というのが日本の文化的なモノづくりだとか、芸術芸能の始まりや発展に関わりが深い人たちだったことがわかってきたんです」。

ギャラリーで働いている頃から日本のモノづくりはどういうところから生まれてきたのか、その基底はどこにあるのかという疑問をずっと抱えていたという坂本さんにとって、山伏について調べ、その行を実践していくことは答えに近づくための筋道となった。

山伏の本来の姿

えんのおづぬ
役小角によって開かれたとされる修験道には厳しい修行のイメージがつきまとう。
強面の宗教なのではないかと腰が引けてしまう面もあるかもしれない。しかし、本来山伏とは聖なる山を崇拝すると同時に、山の知恵を豊富に蓄えたナチュラリストであった。坂本さんの考える山伏もいたってシンプルだ。

「深い山へ入って、自分の身体を通して、かつての人たちと同じように自然と向き合ってみること。毎日の生活の中で、そのままの自分を生きること。それが僕にとっての山伏です」(『山伏と僕』より)。

実際、霊山・月山の麓に暮らす坂本さんは毎日のように山に入る。取材時は春の山菜の最盛期で、山菜採りがこの時期の日課となっているそうだ。聖なる山のそばで暮らし、山の生活文化を掘り起こし、実践する。聖と俗との境界で様々な方法を駆使して、得た知恵を共有していく。そうした生活こそが本来の山伏の姿だと坂本さんは考えている。


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