17:00
幸せな気分になったせいか急に眠くなる。屋上にテラスがあるらしいので、冷たい風でも浴びて眠気を覚ますことにした。
18:10
屋上からテニスの試合を眺めたり、部屋で読書をしたりしているうちにいい時間になったので、カフェラウンジで夕食をとることにした。
しばらく迷ったあと、季節野菜のグリルとチキンのテリーヌを注文。僕は田舎育ちなので野菜の味に関してはわりにシビアだけど、これが文句なしに美味しかった。特に蕪がジューシーでハッと目が覚めるような味わいだった。
食事後はワインを片手に友人やスタッフと会話を楽しんだ。それはとても親密で、手放しがたい時間になった。余談だが、当時のメモを見返すと「満ち足りた気分になった」と書いてある。うん。たしかにそのときの気分はそうとしか表現できそうにない。
Noumは不思議な場所だ。気取ったところはぜんぜんなくて、誰でも気軽に立ち寄ることができる。それでいて、日常とはちょっと違う、特別な感覚を味わうこともできる。それは僕に、子どものころに遠足で行った野原を思い出させる。もしかしたらこの感覚が、Noumの表現したいものなのかもしれない。
21:00
ずっと話し続けていたかったが、まだ仕事が残っていたので客室に引き上げた。
ドアを閉めた瞬間、自分だけの時間がはじまったという感覚があった。集中して原稿が書けそうだ。
会話したいときはカフェラウンジへ行けばいいし、静かに読書や仕事をしたいときは部屋に入ればいい。こういう過ごし方ができるホテルって、意外に少ないように思う。ホステルでいろいろな人と交流するのも素敵だ。アッパー向けのホテルで贅沢な時間を過ごすのもいい選択だと思う。でも、僕が求めているのはその中間だ。
仕事がすっかり片付いたあとは、ただひたすらに川を眺めていた。どんどん気持ちが凪いでいくのを感じる。こんなにリラックスしたのはいつぶりだろうか? 一瞬、寂しさを覚えた。でも、この景色をほかの人も眺めているのだと思うと、不思議と温かい気持ちになった。……こうして夜は静かに、とても穏やかに更けていった。
7:00
太陽の光で自然に目が覚めた。窓を開けると冷たい空気が入り込んでくる。冬はすぐそこまでやってきているようだ。
朝食まで時間があったのでカフェラウンジで寛ぐことにした。本棚でよさそうなエッセイを見つけたので手に取る。
果たして、その本は素敵だった。特に表題にもなっている「雲の憩う丘」という名前の詩に心を奪われた。購入しようとしたが、部屋に積んである未読の本のことを思い出して動きが止まる。まあもう少しゆっくり考えるとしよう。
それにしても、雲の憩う丘というのはどんな場所なんだろう。もし誰かに尋ねられても、うまく答えられそうにない。「人が憩う野原」のような場所なら、すぐに答えられるのだけど。
「いい1日の始まりは、おいしい朝食から」という考えから、Noumは朝食にも力を入れている。これを楽しみに宿泊するゲストも多いそうだ。メニューをじっくり吟味し、僕は人気のフルブレックファストを頼んだ。
……チリビーンズにバジルソースを和えたトマト、関西の人気店から仕入れたパン。どれも甲乙つけがたいが、特に自家製のハムとソーセージが美味しかった。なんというか、とても元気が出る味だ。思わずニコニコしてしまう。
時計を見るとまだ8時を過ぎたところだった。コーヒーを飲みながら、いつもだったらまだ寝ぼけているころだなとか、さて今日はどうしようかとか、そういうことを考える。そのとき、天井のスピーカーからビートルズが流れ出した。ジョンとポールの美しいハーモニーが空間を満たしていく。
うん。今日はいい日になりそうだ。
9:00
チェックアウトを済ませ、Noumを後にした。僕はゆっくりと深呼吸をして、それから川を眺めた。競い合う少年たちのように風と光が水の上を走っていく。こんなに清々しい気分で朝を迎えるのはいつぶりだろうか?
そのときふと思った。Noumはきっと、新しい朝を迎えるための場所なのだ。心のこもった応対、飾られたアート、大きな窓、美味しい朝食。それらはすべて、きっと、このひとときのために。
さあ、今日はなにをしようか。まだなにも決まっていないけど、まるで野原にいるときのように心は澄みきっている。とりあえず駅まで向かおう。そのあとのことはそれから考えよう。本一冊分だけ重くなったリュックを背負いなおし、僕は軽い足取りで歩き出した。
Hotel Noum OSAKA(ホテル ノウム オオサカ)
大阪府大阪市北区天満4-1-18
天満橋駅から徒歩6分、大阪天満宮駅から徒歩9分、南森町駅から徒歩11分
06-6940-0882
no-um.jp