「まるで野原に横たわっているかのような心地良さをホテルとして表現しました」

Noumのリーフレットにはこう書いてある。果たして、それはどんな心地良さなのだろうか? 今回の記事は、滞在中に見聞きしたことや感じたことを書き綴ったものである。

13:00

Noumの最寄り駅である天満橋駅に到着した。なんば駅や梅田駅からは約15分、新大阪駅からは約20分で移動可能と、出張時にも利用しやすいロケーションとなっている。

川岸は公園として整備されていて、季節の木々や花々を楽しめるようになっている。取材時はちょうど紅葉の季節で、赤と青がその美しさを競い合っていた。

すぐ近くには川が流れている。淀川の旧流路である大川だ。その緩やかな流れのおかげか、大阪の中心エリアでありながら、どこか穏やかな空気が漂っている。Noumは駅の対岸にあるため、途中で橋を渡る必要がある。リュックを背負いながら橋を歩いていると、一気に旅情が高まっていくのを感じた。まるで冒険の始まりのようだ(僕はあるRPGのワンシーンを思い出した)。

13:15

8階建てのオフィスビルを大幅にリノベーション。美しいホテルに生まれ変わった。

橋を通過し、落ち着いたオフィス街を進んでいくと、ひときわ洒脱な外観のビルが目に入る。目的地のNoumだ。重厚な木製ドア、シックなブラケットライト、金属製のロゴサイン……。エントランスを見ただけで、こだわりのあるホテルだということが分かる。

ゲスト以外も利用できるカフェラウンジを併設。仕事の打ち合わせなどにも便利だ。
随所に自然素材を配し、温かみのある空間に仕上げている。

言うまでもなく内装にも妥協はない。カウンターやキャビネットなどの大型什器から花瓶やアートフレームなどの小物に至るまで、こだわり抜いたアイテムをセレクトしている。

壁材や床材、テーブル、照明……。ひとつひとつの要素を抜き出すと、意外にも個性的なデザインの物が多い。それを違和感なくまとめ上げた手腕には脱帽するしかない。

13:30

チェックインは15時からでまだしばらく時間がある。カフェラウンジで待ってもよかったが、せっかくなのでサイクリングを楽しむことにした。

大阪城を筆頭に、近隣には有名観光地が点在している。だが今回は、気が向くままに街中を探検したいと思った。折しも紅葉の季節。ゆっくり川沿いを走っていくのも悪くないだろう。

都市を走るのに最適なtokyobikeをレンタル可能。操縦しやすく、スポーツバイクに不慣れな人でも安心して乗ることができる。

ビジネス街から住宅街、下町、それから門前町という具合に、次々に景色が変わっていく。普段使っていない神経が活性化していくのを感じる。

  • 川沿いの道はしっかりと整備されている。早起きしてランニングを楽しむゲストもいるそうだ。
  • そこに川があるだけで、なんでもない風景が特別に見える。

道中で良さそうな喫茶店をいくつか見かけた。残念ながら時間の都合で立ち寄れなかったが、次にNoumに泊まるときはぜひ喫茶店巡りをしたいと思う。聞くところによると美味しい定食屋や居酒屋も多いらしい。どこに行くかで迷ったらスタッフに尋ねてみてはどうだろうか。

14:30

近くに「繁昌亭」という寄席があるらしい。落語にはけっこう興味があるので立ち寄ることにする。

かつてこの界隈には10軒近くも寄席があったが、戦争などの影響で姿を消していった。危機感を覚えた有志が募金活動をはじめ、2006年にオープンしたのがこの繁昌亭である。外観は新宿末廣亭をお手本にしてるそうだ。

繁昌亭では夜だけではなく、昼にも公演が行われている。例えば午前中はサイクリング、午後からは落語を楽しみ、そのあとは商店街で食べ歩き……というプランはどうだろうか?

繁昌亭のすぐ隣りには「てんじんさん」という愛称で親しまれる大阪天満宮がある。この日はちょうど七五三が行われていて、晴れがましい雰囲気が漂っていた。

繁昌亭から北に向かうと、日本一長いことで知られる天神橋筋商店街が見えてくる。その全長は約2.6キロ。昔ながらの定食屋や喫茶店、食べ歩きが楽しめる惣菜店、ディープな金物屋や陶器店など、様々な店舗が軒を並べている。



ほかにもツギハギ荘というイベントスペースや、サロンモザイクというギャラリーなど、個性的な店舗が点在している。一日ではとても時間が足りない。もし僕が連泊するとしたら。初日は目ぼしいところを訪れ、ついでに現地の人から情報を仕入れる。そして二日目はtokyobikeでスピーディーに街を巡る……というプランを立てるだろう。こうやって現地で計画を組み立てていく旅もたまには悪くないものだ。

15:30

Noumに戻ってきた。「サイクリングはどうでしたか?」とスタッフに尋ねられる。

「天気もいいし、坂が少ないしで、とっても快適でしたよ」と僕は答えた。「次はもっと遠出して、淀川の河川敷とか走ってみたいですね」

レセプションでスタッフと立ち話をしているとき、「外は寒かったでしょう」と他のスタッフが白湯を持ってきてくれた。こういうささやかな気遣いが嬉しい。

しばらく談笑したあと、チェックインを済ませて部屋へと向かう。今回宿泊したのはリバービューダブル。その名のとおり川の見える一室だ。

面積は約10㎡と決して広くはないが、大きな窓があるおかげで開放感があった。

テーマは「シンプルで、温かみのある空間」。簡単そうで非常に難しいコンセプトを実現するため、家具やインテリアだけではなく、パジャマの素材やスリッパの色を決める際にも検討を重ねたそうだ。


客室には植物とアート作品を用意。空間の雰囲気に合わせて飾るものを変えているらしい。どんな作品との出会いがあるのか、宿泊時のちょっとした楽しみになりそうだ。

植物はとても元気で活き活きとしている。聞けば、グリーン担当のスタッフが小まめに世話をしているそうだ。大変な作業だが、ゲストのためには労力を惜しみたくないという。

細かいところでいうと、オリジナルデザインのドアノブに注目してほしい。野原から飛び立つ鳥をモチーフにした、その美しい造形に目を奪われてしまった。もちろん見た目だけではなく、握りやすさなど基本的な使いやすさにも配慮している。

  • ドアノブをデザインしたのはALLOYの山崎勇人氏。ロゴサインやベッドなども彼が手掛けている。
  • 水回りの設備は最小限だが、細かいところまで作り込まれている。バスアメニティーには手肌に優しい「OSAJI」のアイテムを採用。もし気に入ればフロントで購入もできる。

「滞在中は日常から少し離れ、ニュートラルな気持ちで過ごしてほしい」という考えから、客室にはテレビを設置していない。僕はテレビを観ないので問題なかったが、人によっては手持ち無沙汰になってしまうかもしれない。ただ、考え方によっては、それは普段できないことをする好機ともいえる。小説を読んだり、パートナーとゆっくり語り合ったり、ぼんやりと川を眺めたり……。そうこうしているうちに、あっという間に時間は流れていくだろう。いうまでもなく、それは貴重な時間になるはずだ。

16:20

部屋で寛いでいたら小腹が空いてきた。まだ夕食までは時間があるが、シャワーを浴びたばかりで外に出かける気分ではない。そうだ。カフェラウンジでおやつを食べるとしよう。

  • どのスイーツもクオリティーが高く、ドリンクメニューも専門店にまったく引けを取っていない(コーヒーは東日本橋の名店「BERTH COFFEE」が監修していると聞いて納得した)。
  • やみつきになったチョコドーナツ。次回訪れたときはテイクアウトして公園で食べてみたい。

Noumに訪れたら、ぜひこのチョコドーナツを注文してほしい。これが思わず静かになってしまうほど美味しい。各々が持っているであろう「理想のドーナツ」のイメージを、軽々と飛び越えてくる味だ(あまりにも好みすぎて、滞在中に5個も食べてしまった)。スタッフによると、この美味しさにたどり着くために試行錯誤を繰り返してきたという。あるスタッフは「試食しすぎて嫌いになりましたよ」と笑いながら告白した。

パジャマの素材をどうするか。ドアノブの形はどうするか。ドーナツをどう作るか。そんなふうに、目立つところだけではなく、人によっては気づかないところにまで心を砕く。あるいは考えすぎかもしれないが、このドーナツは、Noumを象徴するひとつの存在ではないかと感じた。

次ページ
屋上からの眺め、カフェラウンジで夕食、就寝。そして朝食

渡辺平日

渡辺平日

日用品愛好家。美しく健やかで、そして清らかなプロダクトを愛しています。趣味は町歩きと物件探しと民話収集。そういう話題が耳に入ると、反応して振り返ります。
Twitter:@wtnbhijt