コペンハーゲンが独自の音楽シーンを形成していることをご存知だろうか。中心地から北に位置するメイヘムと呼ばれるエリアが震源地となり、PoshIsolationというレーベルを主催するローク・ラーベクがキーパーソンとなっている。ライブ会場やリハーサルスタジオが併設されたメイヘムにはロークが認める若い有望なミュージシャンが集まり、ギグを重ねる。ときには煌びやかに、ときには耽美的に奏でられる音楽とその世界観はすぐさまアンダーグラウンドを飛び越え、世界中のインディーミュージックシーンに認められた。IceAgeやCommunionsといったコペンハーゲンを代表するバンドがメイヘムから輩出されているのが証拠だ。
「メイヘムはコペンハーゲンの音楽シーンの象徴だ。俺らも若い頃はよく行っていたよ。Communionsのメンバーは生まれ育ったエリアも近くて家族みたいなものだね。ただ最近は1年の半分以上を海外ツアーで費やしているから、遊びに行く機会も減っているけど。メイヘムではたくさんのことが起こる。そこに行けば誰かがいるし、音楽を作れば新しいものが生まれる。ただハングアウトするのもいい。メイヘムは偉大な場所だよ」とFirstHateのヨアキム・ノルガードは語る。
「ただ、シーンはつねに変わる。いまではたくさんの人が集まるようになってしまい、当時の空気感とは違うものになっているかもしれない。アンダーグラウンドとして象徴的だったものが、エレクトロの象徴になっている気もする」。アントン・ファルクはそう続ける。
FirstHateはミュージシャンであり、旅人でもある。このインタビューが行われたのも1ヶ月に及ぶツアーから帰ってきたばかりで、12ヶ国で17回のライブを行ったという。ドイツ、ポーランド、スイス、リヒテンシュタインなど、アメリカやイギリスといったメインストリームから離れた国での演奏を好む。「俺らの音楽は大衆的ではないから商業性を重視してツアーする必要がないんだ。その代わり少しでもファンがいる場所があったら極力行くようにしている」(アントン)、「おかげで世界中旅することができるし、美しい景色を観ることもできるからね」(ヨアキム)
ツアーが終わると次なるプロジェクトがあるというのだが、それがまた面白い。インドネシアのレーベルと一緒に50個限定のカセットテープを作っているという。
「インドネシアのレーベルからコラボしたいというオファーがあったんだ。よくよく話を聞いてみると、インドネシアにもFirstHateというバンドがあるらしく、偶然というか間違って俺らの音楽を聴いたらしいんだけど、すごい良かったみたいでそのままコンタクトしてきたんだ。俺らFirstHateの特徴として、インターネットを通じてアクションを起こしてくれる人がとても多いんだ。それもごく自然にというか、当たり前のようにコンタクトしてくる」(ヨアキム)、「フィジカルなやり取りを好む人が多い中で、俺らはインターネットの偶然性みたいなものを歓迎している。インドネシアは行ったことない国なのに、こういう出来事が起こるなんて素晴らしいよ。実はバンド名もBandNameGeneratorというサイトを使って決めたんだ。いくつかのキーワードを打ち込むと自動でバンド名が提案されるシステムだよ(笑)。FirstHateはとてもインターネット的で、楽曲の名前もこれを使って決めることもある」
二人にコペンハーゲンという街について尋ねると真剣な表情でこちらを見つめてきた。
「安全な街コペンハーゲンで生まれ育つことは最高だと思う。ただ問題となってくるのはメンタルの問題だ。都市が大きいわけではないので管理下に置かれがちというか、両親と暮らしているだけでも酒は飲めないしウィードも吸えない。若者らしい冒険がしづらくなっている。何より都市がグローバリズムを推奨しているだけに、どんどん普通になっていく。平均的というか……」(ヨアキム)
「清潔でシンプル、ライフスタイル重視、これは東京も同じだろ?人がリスクを取らなくなっていく。失敗をしなくなったり、冒険心を失うのは何より怖いよ。だから俺らは旅を続けるんだ。まだ見たことないものを探しに行くことで自分たちは成長できる」(アントン)
確かに国際的な都市のロールモデルとして世界から注目され続けるコペンハーゲンだが、ローカリズムが軽視されるようになるとそこにカルチャーは根付きにくい。FirstHateは若くしてそんなところにも気づき、警鐘を鳴らす。いつの時代も彼らのような若者がシーンを牽引していくのだ。
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