神代植物公園からほど近く、自然豊かで静かな界隈に、壁面に無造作に積み上げた薪と煙突が異彩を放つレストランがこの春にオープンした。名はMaruta。いわゆる「丸太」であり、田丸さんというオーナーの苗字にも由来し、あとは外国人が音としても親しみやすい店名としてこの単語が選ばれた。グランドオープンを直前に控え、試験的にディナー営業を開始したばかりの店で、石松一樹シェフに話を聞いた。

オープンキッチンに備え付けられた大きな暖炉には、朝に割られた薪がくべられ、炭を作るなどしながら火の温度が調整される。Marutaで見る開店前の準備の光景だ。そもそもはグリーン・ワイズという会社で緑化事業に携わるオーナーが、暖炉を囲んでロングテーブルで食事を楽しめるようなレストランを望んでデザインされたのだという。


「暖炉というのは、たしかに扱うのが難しい部分もありますが、調理する熱源として非常に優秀なんです。加熱温度が非常に高く、遠赤外線によって中まで柔らかく火が通り、木の香りも移る。火を囲って食べてほしいというオーナーの思い
と、私の望む薪の熱源を使った調理法が、この暖炉で組み合わさったんです」

そう語るシェフの石松一樹は、フランス料理店で働いた後に、オーストラリアはメルボルン郊外の〈Brae〉という店で働いた。ダン・ハンターという名の気鋭のシェフが担うこの店の料理は、土地に根ざしていたという。野菜やハーブは裏庭で育て、生ごみなどから堆肥を作って農作業に用い、また動物系の食材も、地元産にこだわっていた。

「うちの店の裏庭では、さすがに店の料理に使う分は賄いきれませんが、野菜やハーブを育て始めたので、ハーブティーを注文されたお客さんには、庭で摘んで入れていただいたり、お昼に野菜を収穫して料理するイベントをしたり、色々と楽しめる可能性があるんじゃないかと思っています」
 
サーブされた料理を食べる以上の体験ができるレストラン。そう、Marutaではそんなスタイルを目指している。ロングテーブルにも、秘密が隠されている。


シェフの石松一樹(右)と、スーシェフの中村有作。食材の無駄をなくし、火をダイナミックに使うスタイルは饗宴的な楽しさも味わうことができる。

「例えば今日は半頭のイノシシを仕入れたので、暖炉の火力を活かして、できるだけ大きな塊肉を焼いて提供します」と石松は説明し、暖炉の火が強い箇所と弱い箇所を使い分けながら、焦げ付かず全体に火が通るようにコントロールする。

「このイノシシは害獣駆除の目的で捕らえられたイノシシです。健康な野生の肉を無駄なく仕入れ、無駄なくすべてを食べられるように、部位によって調理法を変えてご提供します」
 
筋の部分はじっくりとオイルで煮込んで柔らかくホロホロに、骨のまわりはジューシーに焼き上げて、ローズマリーの香りを焼き付ける。エンターテインメント要素が先走ることなく、調理過程を見ながら、肉の旨みやハーブの香りを味わえる。

「大きな塊肉なので、ロングテーブルで隣り合わせたお客様に、1枚の大皿でご提供してシェアしていただくこともあります。うちのオーナーがコペンハーゲンの〈ノーマ〉というレストランに行った時、知らない人たちと鶏1羽を丸ごとシェアしたり、記憶に残る体験としての食事だったと語っていたんですね。この店でもその体験を提供したいですね」


塩レモンやピクルス類はもちろんのこと、ハーブのオイル漬けや魚醤、肉系の“ブシ”の類など、調味料はどんどん作り、保存食の知識も増えているという。その知識と蓄えによって、食材の仕入れで起こるムラを解消する。 

食材の仕入れにおいて、コンセプトの一つとして掲げているのが「ローカルファースト」。近隣の農家から野菜を仕入れるのみではなく、肉の仕入れも近隣にこだわる。

「合鴨農法で1年間働いた後に屠殺された合鴨も仕入れますし、牛肉の仕入れも少し変わっているかもしれません。磯沼ミルクファームという牧場が八王子にあるんですが、そこで乳の出なくなった乳牛を埼玉の肥育専用の牧場に移して、食肉用にしてもらうんです。食べるために育てられたのとは異なる動物肉をうちのお店では使用するのですが、生ごみを堆肥にして裏庭の畑で使用したり、小さなところから循環型の消費と生産にこだわろうと考えています」

その循環で興味深かったのが、フォーだった。前菜として供されたのが、アスパラとリコッタチーズのサラダ。暖炉でローストしたアスパラが、自家製のリコッタチーズと合わさり、ハーブやナッツなどと一緒にサラダになっている。そして、リコッタチーズを作った時に出たホエー(乳清)でスープを作り、ほんのり酸味とコクのあるスープでフォーを出してくれる。そして、好みで調味できるように、鴨肉の“ブシ”や、自家製の魚醤などがテーブルに出されるのだ。自然の滋味を堪能し、参加型で能動的に楽しめるレストラン。気鋭のシェフが新たなスタイルを提案する。



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Maruta

東京都調布市深大寺北町1−20-1
(JR 中央線三鷹駅あるいは、京王線調布駅からバスで15 分)
042-444-3511
ランチ 12:00 〜15:00 土・日・祝日のみ(ラストオーダー13:00)
ディナー 一部 18:00 ~ ドアオープン / 18:30 ~ 料理スタート
ディナー 二部 19:00 ~ ドアオープン / 19:30 ~ 料理スタート
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