千葉県大多喜町の〈mitosaya薬草園蒸留所〉は、月に1度、1日限定で一般の人に向けて蒸留所内を公開している。普段見ることのできない敷地内の見学や、オー・ド・ビーを中心としたプロダクトの販売。そして個性豊かな生産者たちによる出店イベントなどで訪問者を出迎えてくれる。若い葉が青々と茂る5月のオープンデーにmitosayaを訪れた。

2015年末に閉園した千葉県立薬草園の跡地を引き継ぎ、クラウドファンディングを経て、〈mitosaya薬草園蒸留所〉は本格的に始動した。

オーナーの江口宏さんは、東京のブックショップ〈UTRECHT(ユトレヒト)〉の元代表。〈Tokyo Art Book Fair〉の立ち上げなど、本に関わる幅広い活動により日本のブックカルチャーに多大な影響を与えた人物だ。そんな彼が、ディスティラーへと転身するきっかけは、フランクフルトの出版社〈リボルバー〉のクリストフ・ケラーとの出会いだった。クリストフ氏もまた、本の世界から退いた後にドイツの山奥で、植物をミックスさせた蒸留酒造りを行う。ジン好きならご存知の方も多いかもしれないが、『Monkey 47』はクリストフ氏が立ち上げ時の主任蒸留士を務めた。家族とともにドイツへと渡り、クリストフ氏のもとで修行を積んだ後、江口さんのmitosayaプロジェクトはスタートした。



ボタニカルブランデーができるまで。
mitosaya蒸留所ツアー

“蒸留所ツアー“では、オーナーの江口さんが自ら蒸留所の中を案内・解説してくれる。もともと薬草園の資料館だった建物を改装し、現在は蒸留機や発酵樽などを設置してボタニカルブランデーを製造している。

正面の入り口には、様々な薬草や実、漢方薬植物などの標本がずらりと並んでいる。これらも資料館に元からあったものだ。

ボタニカルブランデーは、mitosaya敷地内で栽培された様々な植物や取り寄せた季節ごとの果実などを原材料につくられる。収穫したのち、原材料をハンドミキサーなどで細かくしてから、大小様々な樽に入れて発酵させたり漬け込む。

素材を準備してからの工程には2種類ある。1つは、果物などの自らが糖分を持っている材料を発酵させる方法。ぶどうからワインを造るようなイメージで、梨、りんご、みかんなどいろんなフルーツで試す。2つ目は、自分でアルコールを作ることができない材料……ハーブやスパイス、花などは、別で用意したアルコールの中に漬け込む。植物の香りや風味が、アルコールの中に移っていくーー。

こうして、素材を漬けてみなければわからないことや、組み合わせや温度などその時々で香りや味わいに違いが生まれる酒造り。自然を相手にしたものづくりは、予測できない偶然の面白さを持っている。素材との出会いも興味深く、発見の連続だ。

「最近だと、『カラタネオガタマ』というバナナの香りがする、しかもなぜか夕方になると香るという不思議な花を、収穫しては漬けて、というのを繰り返していました」



「この大きい木桶は、発酵槽として使う予定です……というのも、まだ何も漬けていないです。」

圧倒的な存在感を放つ木樽は小豆島からやってきたものだという。クラウドファンディングの支援としてヤマロク醤油から譲り受けた吉野杉の新桶。木桶は、従来は日本の発酵食品を製造する過程で使われるもので、ほかの樽と違い、吉野杉自体の香りも酒に移っていくという。他の樽の何倍もある3000Lの大容量へのトライは、夏頃から開始予定だ。



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mitosaya薬草園蒸留所

千葉県大多喜町大多喜486
http://mitosaya.com/
オープンデーは基本的に毎月第3日曜日に開催。7,8月、1,2月はお休み。
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