登山、サーフィン、スキー、フィッシング、トレイルランニングなどの世界で愛されつづけているパタゴニアのウェア。最近、パタゴニアのショップでビール、フルーツバーなどを目にすることはないだろうか。これは2016年から日本で発売されている〈パタゴニア プロビジョンズ〉の商品群。「なぜ、パタゴニアが食品を作るのか?」。食品の裏側にある物語をパタゴニアに聞いた。

現在、日本の〈パタゴニア プロビジョンズ〉では、『ロング・ルート・エール』、『セイバリー・グレインズ』、『スープ』、『ワイルド・サーモン』、『オーガニック・フルーツ+アーモンド・バー』が展開されている。商品はどれもシンプルだ。それは過度な装飾や機能を誇示することのないパタゴニアのウェアと同じ哲学を感じる。厳選されたラインナップはどのようなメッセージを持つのだろうか。

「パタゴニアのなかにははアウトドアウェアビジネス以外に、いくつかの事業を行っています。サーフボードを作る〈フレッチャー・シュイナード・デザインズ〉や、環境革新的なベンチャーに投資をする〈ティンシェッド・ベンチャーズ〉などで、〈パタゴニア プロビジョンズ〉もそのうちのひとつです。パタゴニアがアウトドアウェア作りを通じて成し遂げたいと思っているのと同じように、食品から今ある環境課題を解決したいという思いを持っています」とプロビジョンズ・マネージャーの近藤勝宏さんは言う。

パタゴニアの使命は、「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行すること」だという。パタゴニアはアパレルビジネスをより良いものへと変えるため、多くの変革を促してきた歴史を持つ。1996年に製品で使用するコットンをすべてオーガニックコットンに変えた。そのほかにも、ウールやダウンの世界的な調達基準認証にもパタゴニアは大きな影響を与えている。ウェア作り同様に、〈パタゴニア プロビジョンズ〉は食品業界にも大きな変化を起こそうと考えている。なぜ、変化が必要か。その科学的根拠が、『プラネタリー・バウンダリーズ(地球の境界線)』という考えだ。

「これは、国際的に著名な28名の科学者による調査結果です。気候変動、海洋の酸性化、土地利用の変化、生物圏の健全性、その他を含む地球の維持限界に関する9つの重要な環境問題を提示しています。人間の活動範囲が『プラネタリー・バウンダリーズ』の境界のなかであれば、健全な地球の運営ができていると考えますが、特に気候変動や生物多様性の分野において著しい悪化が見受けられます。そして、実は食品産業がその悪化に大きな影響を与えているんです。この数十年で、古代から営まれていた農業や漁業のあり方が劇的に変わりました。なかでも環境問題の主犯格とも言われている農業のあり方を変えなければ、この問題を解決できません。パタゴニアはアウトドアウェアビジネスで環境課題を解決したいと活動してきました。これまでに様々なノウハウを学び、他企業に対して影響を与えています。アウトドアウェアで培ったノウハウを食品産業に当てはめて、食品産業を変えていこうというのが〈パタゴニア プロビジョンズ〉なのです。私たちは本気で環境課題を解決したいと考えています」

私たちに必要な食品だからこそ。

衣服と同じように、食も日々の生活に欠かせない。〈パタゴニア プロビジョンズ〉は、すべてのパタゴニア製品と同じく、最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして最も重要なことは、「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」ことと近藤さんは言う。

「食品は私たちに絶対に必要なものです。その食品の消費のあり方、生産方法を変えていくことで、環境課題を解決していくことができるのではないかと、私たちは考えています。〈パタゴニア プロビジョンズ〉は、2013年にアメリカでスタートし、その次に日本ではじまりました。現在、『ロング・ルート・エール』、『セイバリー・グレインズ』、『スープ』、『ワイルド・サーモン』、『オーガニック・フルーツ+アーモンド・バー』という商品があります」

「パタゴニアの社員にはアウトドアマンがたくさんいます。皆、外に行くのが大好きで、世界中に出かけるのですが、そのときに本当に食べたいものがなかなか手に入らない。たとえば、ロングトレイルでは、食品は保存がきくものやレトルトになる。〈パタゴニア プロビジョンズ〉の製品はすべて常温保存が可能で、開けたらすぐに食べられるか、もしくはお湯で戻すだけで食べることができるものです。保存剤は一切入れていないので、賞味期限は限りのあるものなのですが、常温保存、運びやすい、お湯で戻せ、野菜や穀物の味が楽しめるのがコンセプトにあります」

〈パタゴニア プロビジョンズ〉は有機食材しか使われていない。アマゾンがホールフーズ・マーケットを買収したりと、現在のアメリカではオーガニックが一大産業になりつつある。しかし、一口に「有機野菜」といっても定義がバラバラで様々な「有機野菜」があるのが現状だ。

「主要となる穀物や野菜はできるだけ土壌を回復させるようなやり方で育てられている農家から買っています。土を健全にして地球を回復させる農家をソーシング先として選んでいます。それは、代々続く農家であり、作物も多様性に富んでいます。それゆえに、スープには使用されている材料は、すべて有機栽培された野菜や穀物。お湯を入れてスープにしてもいいのですが、個人ではなかなかこれだけの材料を集めるのは大変なので、リゾットやパスタソースに使ってもらえば、汎用性も広がると思います」

オレゴン州ポートランドのブルワリー〈ホップワークス・アーバン・ブルワリー〉では、『ロング・ルート・エール』を作っています。原料には有機のホップ、豊かなポートランドの水、そして多年生穀物のカーンザを使っています。カーンザは多年草ですので、土壌の環境を健全にし、二酸化炭素を封じ込めます。そして、化学肥料や農薬を使わずに作物を育てることができます。カーンザは長い根と何年にも渡って成長しつづけるという特徴を持つため、不耕起栽培で成長することができ、貴重な表土を守りつつ、とてもおいしいビールを造ることができます」

一方、現在天然のサーモンは減少の一途をたどっている。ゆえに〈パタゴニア プロビジョンズ〉の『ワイルド・ピンク・サーモン(カラフトマス)』と『ワイルド・ソッカイ・サーモン(ベニザケ)』は、両方とも古代から行われている伝統的な漁法で捕獲された北海で育った天然のサーモンを使用する。

「『ワイルド・ピンク・サーモン』は一網打尽で取り尽くす刺し網ではなく、リーフネットを使用しています。この漁法は一切混獲をせず、ターゲットとした魚だけを獲る最もクリーンな漁のひとつです。しっかりと管理された漁業を行うことで、その地域では実際にサーモンの頭数が増加しています。サーモンを燻製にし、オーガニックのオリーブオイル漬けにしているのですが、このオイルもおいしいんですよ(笑)。すべてを無駄にせず、余すことなく利用しています」

創業者であるイヴォン・シュイナードは自分たちの冒険に必要な登山道具やウェアをつくり、それを仲間たちに売った。その流れがパタゴニアの潮流だ。〈パタゴニア プロビジョンズ〉は現在その支流と言えるが、将来的にその本流になる可能性を大いに秘めている。

「自分たちが食べたいものを作っていって、それを仲間たちに売っている。昔と違うのは、その仲間の輪が少し大きくなっただけ。〈パタゴニア プロビジョンズ〉の商品は、本当に私たちが食べたいものを製品化しています。日本では、食材に占める有機食材の割合はほんのわずかです。消費者、作り手の意識、政府の基準も変えなければと思っています。〈パタゴニア プロビジョンズ〉は、そこを変えるための歯車としてひとつの存在になりたい。そのためにはビジネスも大きくならなければいけないし、食品もアウトドアウェアのようにビジネスとして成り立つことを示さないといけませんね。

〈パタゴニア プロビジョンズ〉の商品は全国のパタゴニアショップでも買えますしウェブサイトでもご購入いただけます。ぜひ各種商品が入った『スターターセット』や『ギフトボックス』をお試しいただけたらと思います」

12月7日からは、クリスマスなどプレゼントにも最適な「ギフトページ」がスタート。<パタゴニア プロヴィジョンズ>の商品を集めたギフトボックスを購入できる。12/27まで送料無料キャンペーンを実施中だ。

〈パタゴニア プロビジョンズ〉の存在は、まだまだ小さい。はじまりはハイキングやスキーのあとの1缶のビール、1本のフルーツバー、1杯のスープかもしれない。しかし、私たちひとりひとりが、どの食材を選ぶかで世界は変わる。かつて、イヴォン・シュイナードが独学で鍛造を学び、ピトンを作り世界を変えたように。〈パタゴニア プロビジョンズ〉のシンプルな食材は、世界を変える小さな選択のひとつかもしれない。

パタゴニア日本支社 カスタマーサービス
Tel:0800-8887-447
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