古い家に住み続けることの豊かさ、 その意味を次世代にも継承していく
世田谷区に一軒の「町家」がある。ここは、「建築を自由にする」という精神のもとで活動してきた建築家・坂本一成が設計し、1976年に竣工された「代田の町屋」だ。日本の建築史的にも重要な一軒といわれ、当時さまざまな形で議論された都市住宅の一つの答えだとされている。建築の特徴を坂本氏の言葉を借りていうならば「空間を相対化し、主室、室、間室、外室といった隣接関係による室配列」。つまりは、従来ある住宅の“LDK”のように、人が過ごす用途によって並べた配列ではなく、部屋を一つの場所としてのみ捉える。
中庭も含めた全部屋が、その関係の中で位置付けられた間取りとなっているのだ。一方、全体的な空間はオープンな状態。ガレージ兼エントランスを抜ければ、中庭、一階のリビングが連なっており、裏の緑道へと繋がる。床面は内外で全て大理石となっているなど、内部の空間と外部の環境はシームレスに繋がり、都市と家との連動性を持たせることで快適さを実現している。
現在、この場所に居を構えるのは、ノルウェー人で現代アーティストとして活動するガーダー・アイダ・アイナーソンさんと、ブランディングPR会社を経営する本田美奈子夫妻。そして4歳の男の子だ。「町家」との邂逅となったのは約5年前。
「もともとNYと東京を往来する生活をしていましたが、息子が生まれるタイミングで、東京に家を建てようと考えて土地を探していました。その時、偶然この家に出合いました」
聞けば、日本の近代建築にとって重要な建築物だということを知り、オリジナルの状態にして住み継ぐことに使命感を覚えたという。
「日本の建築はスクラップ&ビルドのサイクルが他国に比べて早く、古い住宅建築の価値を上げる概念自体があまりないようですが、われわれは歴史的建築物に住むことに価値と豊かさを感じ、時代を越えて大切にされるべき住宅建築もあるはずだと考えます。住んでいると、坂本さんが細部に至るまで考え抜いて設計された本当に美しい家だと感じます。息子含め、次世代に継承してもらいたいですね」
PERFECT DAY 04号をAmazonでチェック