週替わりでプロダクツを紹介する連載コラム
今週の推薦人は日用品愛好家・渡辺平日

no.30 |〈HERMOSA〉の時計『PIVOT CLOCK』

『未来のヴィンテージ』

このプロダクトを簡単に説明するとしたら、こういう形容がしっくりくる。

この置き時計の名前は『PIVOT CLOCK』。鎌倉市稲村ガ崎に拠点を構えるブランド『HERMOSA』のアイテムだ。古き良きアメリカン・デザインを現代に蘇らせた作品で、発売以来、レトロ・フリークを中心に根強い支持を集めている。

数年前、ある展示会でこのプロダクトを見かけ、ひと目で虜になってしまった。とにかく売れ線、とにかくトレンドの時代に、こういうタイムレスな作品が誕生したことが、ひどく嬉しかったのだ。その場で自分用に発注を掛け、幸せな気持ちで帰路に就いた。実物が届いたのはそれから半年後ぐらいだっただろうか。それ以来、テーブルの上で時間を刻み続けている。

「このプロダクトの最大の魅力は?」と聞かれたら「フェイスのデザイン」と僕は答えるだろう。通常、プラスチックを用いるフェイス部に、今作では真鍮を採用。素材特有のクラシックな質感が、この置き時計を特別なものにしている。インテリアとしてはそう大きいものではないが、ひとつあるだけで空間の雰囲気を引き締めてくれる。

時間表示はフリップ式を採用。一分間に一度、パタと音を立てながら時間を刻んでいく。電波時計が当たり前となり、原子時計の普及もそう遠くない現代において、その様子は健気というか、実に牧歌的に映る。その働きぶりを眺めていたら、ついつい愛情が湧いてしまうことだろう。

名作オーディオ機器を思わすその佇まい。どこか人間臭いその所作。まったく、飽きとは無縁のプロダクトである。

語弊を恐れずにいうと、普通の置き時計と比べてかなり不便であることは否めない。時間はわりと頻繁にずれるし、時刻を修正するのも一手間かかる。機構が複雑だから故障もしやすいし、パタパタと音が鳴るから置く場所を選ぶというデメリットもある。

「それでも」と、僕は断言する。それでも、『PIVOT CLOCK』は、手に入れるべきプロダクトなのだ。その魅力は、いくつかの欠点を補ってあまりある。

使い続けていくあいだに調子が悪くなったり、友人から「もっと便利な時計にすれば?」などと助言されたりもするだろうが、そのつど修理したり庇ったりしながら、愛用していくつもりだ。

ときおり、自分が死んだ後を想像することがある。僕の膨大な形見の処理に困った子孫が、コレクションの一部を骨董品屋に持ち込む。それから半年後くらいに、店を訪れた物好きの青年が「すげえ、これ。80年前のプロダクトなんだって!」などと興奮しながら、この置き時計を購入していく。

……こういうことを考えはじめると、無性に楽しくなってくる。あなたも、未来のヴィンテージを育ててみてはいかがだろうか?

PIVOT CLOCK ¥10,000(税抜)/ HARMOSA

hermosa-online.shop-pro.jp

渡辺平日

渡辺平日

雑貨やインテリア、日用品や家具を売ったり買ったりする仕事をしています。健康的で美しく、清らかなプロダクトを愛しています。いつか、百年使っても壊れない丈夫な道具と、百年眺め続けても見飽きない調度品を取り扱うお店を開きたいと思っています。

Twitter:@w_heijitsu