2010年にサンフランシスコのポトレロヒル地区にオープンしたplow(プラウ)。 1994年にオークランドのOliveto(オリヴェート)というレストランで出会ったジョエル・ブレスカチェクとマクシーヌ・シュウが経営する、朝食とランチに特化したレストランだ。ホールを担当していたジョエルと料理人のマクシーヌ。2人が家族となってからの10年間はレストラン業から離れていたが、いくつかのタイミングが重なって復帰。地元の食材によるホームメイドへのこだわりや、家族の時間を大事にするレストラン経営の方法についてなど、自宅で話を聞いた。

坂の多いサンフランシスコ。plowが位置するポトレロヒル地区は、ダウンタウンからのアクセスもいい閑静な住宅街だ。「近所のお得意さんといい関係を築けているし、住宅街にオープンしてよかったと思っている」とジョエル。


愛らしい豚のイラストがplowのマスコットキャラクター。

季節を問わず定番メニューとして人気なのが、レモン・リコッタ・パンケーキ。ポテトと卵は調理法を選び、ベーコンやソーセージを添えて一皿に。

子どもたちが朝食を食べてから学校に行けて、一緒に帰宅できるのがいいと思って、朝食とランチ専門のレストランを始めたの


自宅のソファに座るマクシーヌ(左)とジョエル(右)

plowを始めるまでの経緯を教えてください 。

ジョエル「オークランドのOlivetoを辞めて結婚して、サンフランシスコに引っ越してきた。子どもも生まれた頃だったので、家族で過ごせる時間を作るためにレストランからは離れようと2人で決めたんだ」

マクシーヌ「レストランは仕事が多いし、家事と両方やるのは大変なこと。それにサンフランシスコは競争相手も多い。だから私は個人で、イベントやウェディングに花のデコレーションを提供するデザインスタジオをオープンしたの。1999年のこと。そこをジョエルも手伝ってくれて、それから彼は自分のビジネスもスタートしたわ」

ジョエル「テイスティングバーを備えたRuby Wineというワインショップを2002年にオープンしたんだ。plowが忙しくなって売却してしまったけど、自宅から数100メートルの場所で今も営業してるよ。しばらく経って、今のplowの物件が空いたんだ。RubyWineからも2ブロックだし、自宅からも100メートルほど。マクシーヌはいずれレストランをやりたいと言っ ていたし、2人の子どもも学校に通い始めていてタイミングも良かった」

〈Dolphin Club〉という水泳クラブに所属するジョエル。真冬の海で開催され る水泳大会〈Polar Bear Swim〉への参加も続けてきたという。

オープンを前に、どうやってコンセプトを決めたんですか?

マクシーヌ「子どもたちが朝食を食べてから学校に行けて、下校時間に一緒に帰宅できるのがいいと思って、朝食とランチ専門のレストランを営業したいとまず考えたの。どんなメニューがいいか、たくさん旅行してリサーチしたわ。メニューの方向性としては、トラディショナルな朝食メニューにひとひねり加えたもの。例えば、パンケーキはメニューに入れたいけど、バターとミルクだけのオーソドックスなパンケーキは作りたくない。そこで色々と試作を繰り返して、レモンとリコッタチーズのパンケーキを定番メニューにすることにしたの」

ジョエル「素材選びにもこだわっている。Farm to Table(農場から食卓へ)を実践すること。有機食材にこだわったレストランは多いが、その意識を持って朝食を提供する店はほとんどない。朝食はパッと手にして食べれるもの、という認識が、都会に住む多くの人たちに共通している。しかし、サンフランシスコでは季節ごとに多様な食材が手に入るし、豊かな1日を始めるために、充実した朝食の時間は大切だと思うんだ。通常の朝食と比べると値段は高くなるが、お客さんはクオリティのためにお金を払うことに納得してくれているよ」

マクシーヌ「基本的な考え方として私たちが子どもにも食べさせたい食材を選んでいるわけだし、ジャムやピーナッツバターなどもすべて自家製。食材で季節感を出すことと、自家製でなんでも仕上げることにはこだわっているわ」

マクシーヌにとってのパーフェクトな1日を尋ねた。「バランスが大切。半日仕事をしたら午後に少しヨガをして、家族の時間を楽しむ。ジョエルは料理が上手だから、彼が夕飯を作ってくれたら最高ね」

食材の仕入れ方法は?

ジョエル「毎週ファーマーズマーケットに通っているし、これまでにいくつもの農場にも足を運んだ。北カリフォルニアのベイエリアは気温の変動も激しく、雨量にもばらつきがあるから、その変化によって農産物の糖度やでんぷん質も大きく変動する。だから継続的に状況を確認する必要があるんだ」

マクシーヌ「そう、農家から『雨のせいで今週は売れるイチゴがないよ』ってマーケットの前にメールをもらったりするわ。それによって、メニューも書き換えないとならない。でも、季節や環境を感じさせるメニューってそういうことだと思うの。Olivetoで働いていた時から30年近い付き合いの農家もいるし、生産者たちとの人間関係はとても大切だと考えているわ」

ジョエル「もし流通業者と仕事をしていたら、イチゴをメキシコから仕入れてくれるかもしれない。しかし、それよりも農家の仕事や気候、環境などのバランスへの配慮の方が重要で、マクシーヌと私はその意識を家庭でも共有している。私たちにとって一番重要な子育てにも関わってくる問題だからね」

2人は「一番大事なのは子育て」と声を揃える。

店名のplow(鋤)も、環境意識に由来するんですね。

マクシーヌ「 何か農業を感じさせるものにしたいというイメージは最初からあったけど、100以上も候補を出してブレインストーミングして、店名を決めるのは本当に大変だったわ」

ジョエル「ホントだね。農業ももちろんだし、牧歌的な田舎のイメージを連想させたいという思いもあったんだ。僕はウィスコンシン州の北の田舎で育ったし、子どもたちともキャンプに行く。だからそういう嗜好を織り込んだ単語にしたいと思った。あと、一音節のシンプルな単語にしたいとも考えた。結果的によかったと思ってるよ。毎朝150本の電話があっても『Good Morning,plow』って繰り返すのはシンプルだからね」


『PERFECT DAY03号』より転載。この記事が掲載されている雑誌をAmazonでチェック

plow
1299 18th Street San Francisco, CA 94107
TEL +1-415-821-7569
営業時間:月〜金 7:00〜14:00、土・日 8:00〜14:00
不定休
eatatplow.com