家の2階には、貴重なブロメリアが栽培される温室が組み込まれている。本格的に熱帯植物を栽培する人が自宅に温室を持つこと自体は珍しいことではないが、その多くは庭などに別棟として建てる。ところが滝沢氏の家は、自邸の一部、しかも、最も日当たりの良い場所に温室が組み込まれているのだ。

「住宅がひしめく東京という場所柄、1階に温室を配置すると十分な日照が得られないことが多いですよね。ですから、2階の南側に温室を配置しました。なにより植物が優先です。これによって、通風も日照も十分に確保できます。また、私は育成環境を把握する事が、栽培の秘訣であり基本だと思っているので、温室にはできるだけ多く足を運びたいのです。しかし、私は医師という多忙な職業のため、自宅と温室が離れてしまうと足を運ぶことが難しくなってしまうので、家の中に温室を組み込むのは必然でした。出勤の際に通る寝室からガレージへの動線の途中に温室を配置することで、朝晩と温室へ必ず立ち寄るルーティーンを実現できたのです。こうした特殊な要望が多かったため、部屋の配置図はすべて自分でデザインを手がけました」

この温室は、世界でも栽培下ではここにしかないという希少な株が集まる“ティランジアの聖地”と呼ばれる場所でもある。



希少種の集まる『ティランジアの聖地』。 Tillandsia ‘Solar Glow’ (左)は、2015年に滝沢氏が国際品種登録したもの。 鮮やかな斑が葉の中央部分に広く入り、世界中のティランジア愛好家から普及を熱望されている。



ダークバイオレットに発色するホヘンベルギアの未記載種(左)や、栽培がとても困難なことで知られるギアナ高地のナヴィア(右)など、レアな植物がひしめいている。

「海外の第一線の研究者とのお付き合いは、20年以上前から続いていますから、今ではとても強いコネクションとなっているんです。コメントを求められて、新種記載段階の植物が送られてくることが毎年のようにあるものですから、維持管理は責任重大なんですよね。そのため、温度センサーによる窓の自動開閉装置、遮光カーテンの自動開閉に加えて、 台風などの強風時には、風速計に繋がるセンサーで窓を自動的に締め切る仕組みにするなど、温室の設備には万全を期しています。温室内の温度や湿度も、ワイヤレスモニターでリアルタイムに、どこからでも確認できますし。 機械に任せられるところは、しっかり機械に任せて私にしか出来ないことを自分でする、そんな機械と私の分業体制ですね」

植物が最高の環境で人と共生できる家の、究極の形のひとつがここにあった。

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東京の住宅街とはとても思えない
圧倒的なスケール感で展開されるエキゾティックガーデン


『PERFECT DAY03号』より転載。この記事が掲載されている雑誌をAmazonでチェック