週替わりでプロダクツを紹介する連載コラム
今週の推薦人は日用品愛好家・渡辺平日

no.24 | ガマ口の財布

雑貨やインテリアを探すとき、僕は東急東横線沿いの店舗に行くことが多い。東横沿線には〈greeniche〉や〈TRAVELER’S FACTORY〉、〈SML〉、〈MIGRATORY〉など感度の高い専門店が数多くあり、いつ訪れても必ず良質なプロダクトに巡り合うことができる。数ある店舗の中でも特別に好きなのが自由が丘にある〈six〉だ。〈six〉は〈DELFONICS〉が運営しているステーショナリー・ショップで、店内には海外の雑貨や筆記用具が所狭しと並んでいる。陳腐な表現だけど、僕にとってはまさしく宝箱のような存在で、いつも夢中になって買い物を楽しんでしまう。

ところで、店内でたまに小学生くらいの子どもを見かけることがあるが、そのたびに僕は嫉妬に似た感情を覚えてしまう。僕の地元には雑貨を販売しているような気のきいたお店は一軒もなく、もしなにか小物を買うとすれば100円ショップ以外の選択肢はなかった。(生まれた場所によって、与えられる情報量にこれだけ差がつくのか……)というようなことを考えると、ついそのような心持ちになってしまうのだ。

話がずいぶん逸れてしまった。今回紹介するのは、その〈six〉で見つけたガマ口の財布だ。一見、何の変哲もない普通の財布のように見えるが、よく観察すると開閉用の金具、いわゆる”ひねり”が無いことに気がつく。

ガマ口の財布にはどこかレトロで和風なイメージがあるが、ひねりを無くすことで非常にスタイリッシュな印象に仕上がっている。仮にスーツ姿の男性が手にしていてもそう違和感は無いだろう。また、突起が少ないので、ポーチやポケットから取り出すときに引っかかりにくいという利点もある。

そうしたメリットがある一方で、開閉する際にはちょっとしたコツを要する。慣れると利き手の親指と人差し指だけで開けられるが、要領を掴むまでは両手を使っても苦労するだろう。はっきり言って面倒くさいかもしれない。ただ、その面倒くささが、このアイテムに遊び心というか、ガジェット的な魅力をもたらしているように感じる。

本来あるべきものをあえて外すことで、新しい価値観が生まれたり、今までになかった使いみちを思いついたりする。「日用雑貨の奥深さ」というと大げさかもだけど、この財布との出会いはそういったものを改めて考える良いきっかけとなってくれた。

冒頭の話に戻るが、僕は高校を卒業して生まれた町を出るまで、物が欲しいのに手に入れることができず苦しい思いをしてきた。ただ、そういう経験があるからこそ、この歳になっても日用雑貨に情熱を注ぎ続けられているという実感がある(もしも買い物に不自由しない都会に生まれていたら、これほどまでに物に執着していなかっただろう)。それが良いことか悪いことかは分からないが、僕はこれからも雑貨や日用品を追求していくつもりだ。

six sixpresssix.jp

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渡辺平日

渡辺平日

雑貨やインテリア、日用品や家具を売ったり買ったりする仕事をしています。健康的で美しく、清らかなプロダクトを愛しています。いつか、百年使っても壊れない丈夫な道具と、百年眺め続けても見飽きない調度品を取り扱うお店を開きたいと思っています。

Twitter:@w_heijitsu