遊牧民にとって、なにより大切な家具は絨毯だという。家やテントに敷き詰められた絨毯は代々受け継がれ、大切に使用されてきた。絨毯のある空間は温かい。絨毯は人類にとっても大切な存在だったということが、彼らの生活から容易に想像することができる。

当然のことながら人類と絨毯のつきあいは古い。現存する最古の「パジリク絨毯」はエルミタージュ美術館(ロシア・サンクトペテルブルグ)に所蔵されているもので、紀元前400年と推定されている。「パジリク絨毯」の完成度は高く、その技術力を考慮すると人類とのつきあいは3,000年を超えるのではないかと考えられている。つまり、絨毯は私たち人類の文明と共に歩んできた大切な存在だ。


SILK PERCIAN
ペルシャの壮大な歴史の中で洗練され、芸術と言われるまでに昇華したペルシャ絨毯は圧倒的な美しさを誇る。その存在感は使い込むほどにまろやかな光沢を生む。熟練の職人の手で繊細に織り上げる手工芸は、ありとあらゆる細部に油断がない。最高峰の絨毯は密度も高く1cm 四方に140 の結びがあるそうだ。前田さんに「良いペルシャ絨毯とは?」と訊ねると「仕上がりの顔」と即答。気品に満ちた絨毯は見る者を魅了する。


TRIBAL RUG
名前の通り「部族(トライブ)」が長年受け継いできた柄が印象的なトライバルラグ。イランのカシュガイ、バルーチ、トルクメン族などの高原地帯や寒冷地などで暮らす人々にとって、生きるための「道具」として使用されてきた歴史を持っている。柄は自然の中で生きてきた人々の健康や繁栄への願いが織り込まれている。この存在感、デザインは部族のアイデンティティと言っても過言ではないだろう。

もちろん、昔は装飾の施された細かな絨毯ではなく、羊毛などをフェルトのようにして敷き詰めた簡易的な物だっただろう。糸、染め色や織りの技術が生まれ、現在のような絨毯が誕生する。宗教により偶像崇拝が禁じられていた地域では、絵画や彫刻の技術に取って代わって絨毯に高い芸術性が現れるようになった。やがてシルクロードを経て遠いペルシャから日本へと絨毯が伝わった。時代を超えて、私たちが絨毯に惹かれるのはなぜなのだろうか。東京・中目黒の高架下にあるラグ専門店〈layout〉の前田里志さんに絨毯の魅力、そして絨毯のある暮らしについて訊ねた。


なぜ、絨毯は3,000年以上、人類に使われてきたのか。
その答えは、使ってみて初めてわかる。

中目黒駅近くの〈layout〉には、ふらっと立ち寄れる気軽な雰囲気がある。「入りにくい絨毯屋のようなイメージにはしたくなかった」と代表の前田里志さんは言う。数千円の小物から高級車が買えるほどのペルシャ絨毯まで取りそろえる品揃えは、そのまま客層にも現れ、幅広い年代が訪れるという。その理由は洗練されたセレクトと明快な価格にもあるだろう。


GABBEH
イラン南西部の山岳地帯に住む、遊牧民族によって織られる厚手の絨毯、ギャッベ。シンプルなパターンや牧歌的な自然モチーフのデザインが多い。遊牧民の女性は嫁入り道具として、嫁ぎ先の家族への想いを込めて織る。脱脂していない羊毛を使用するため、使用するにつれて摩擦でつやを生む。羊毛が油分でコーティングされており、汚れがつきにくい。羊毛の優れた特性から一年を通して快適に使用できることも大きな魅力。

「お客様に興味をもってもらうには、曖昧な部分を出来る限りなくし、わかりやすいことが大切」

と話す。〈Layout〉では、すべての商品に適正な値付けがされている。

「商品を手に入れた人が、この絨毯を手に入れた10年、20年先に、どんな豊かさやハッピーがあるかを知り、納得して買っていただきたいんですよ」


COLLAGE ART RUG
使い込まれた絨毯をブリーチしたり、染めたりしてつなぎ合わせたアート性の高いラグ。コラージュ・アート・ラグはミラノサローネで話題となり、ここ10年ほどのトレンド。古くなった絨毯を再利用する方法として注目されている。〈Layout〉のコラージュ・アート・ラグはトルコで作られており、染料の安全基準をクリアしている。色指定や大きさなどのオーダーも可能で、オリジナルデザインラグを制作することもできる。

冷静な前田さんではあるけれど、生産地へ買い付けに行く時は、つい予算オーバーしてしまうそうだ。

「すぐ欲しくなってしまうんです。絨毯は人の手を経て生まれた『感情的な物』なのでロジカルに判断できないんですよね」

と笑う。


PERSIAN WOOL
熟練の職人の手で繊細に織り上げられたペルシャ絨毯。日本人が絨毯と聞くとまず頭に思い描くのが、このペルシャ絨毯だろう。「日本人の多くはペルシャ絨毯が好きですね」と前田さんは言う。「僕は特にウールのペルシャが好きですね。ウールはシルクほど繊細ではないが、丈夫で使い続けていくとつやを生んで育っていく」。唐草のルーツ、能衣装の裏地に使用されるなどデザインは日本と親和性が高いのも人気のひとつ。

前田さんは〈Layout〉に来る若い世代を「好きな物に囲まれたいという方が多い」と分析する。

「好きな物が集まった部屋の中に良いラグがあると、その空間をバン! とまとめる力があるように思う。部屋にペルシャ絨毯があると最初は違和感があるかもしれない。だけど、馴染んでくると違和感の先に深みが出てくるんです。絨毯ってなくてもいい物。だけど、人類の歴史からはなくならず、今も脈々と続いている。それはなぜなんだろう。それは使えばわかると思う。絨毯を持つ価値観こそが答えだと思うんです」

絨毯を買うことは、人々が織りなしてきた物語を受け継ぐこと。〈Layout〉にある絨毯に触れると、そんなことを感じるのではないだろうか。

Layout※2020年10月より移転
東京都目黒区青葉台2-20-14 青和ビル1F
TEL 03-5773-5721
営業時間 11:00 ~ 19:30
水曜定休
layout.casa