昔は年末ともなれば、家族や親戚、近所の人々が集まり、杵と臼を使って餅つきをするのが恒例行事だった。小分け包装された餅を量販店で購入できるように時代は流れてはいるが、少量生産で作られた餅を購入すると、その味わいの違いに驚かされる。

とくに貴重なのは、もち米を精米せずに蒸してから突いている玄米の餅。玄米は米の外皮が着いたままの状態なので、精米されたもち米よりも固く、軟かく蒸し上げるのに時間がかかる。さらに餅つきとなるとなめらかな餅になるまでさらなる力を要するため、食べた時は旨さもひとしおだ。玄米の持つプチプチとした食感と、パワフルな味わいが魅力。一般的な雑煮はもちろんのこと、揚げ餅にしてさっと醤油をからめて雑煮にしても、焼き餅を塩とオリーブオイルで食してもおいしい。

正月というハレの日だからこそ、普段の何倍も手間のかかった食材を食して気持ちを新たに入れ替える。そんな意味で、餅を食すことはとても重要な儀式ともいえる。日本の食文化において、米はとくに神聖なもの、天からの授かりものであり、米を中心に回っているといっても過言ではない。正月に餅を味わい、自然の恵みに感謝し、あらたな一歩を踏み出したい。