24日から今日まで木曽路を歩いてきた。年末は毎年、仲間と古道をたどるロングウォーク歩きの旅を楽しんでいるのだが、今年は岐阜県中津川にほど近い落合宿から長野県の塩尻宿まで、100km超の道のりを歩いてみることになった。中山道の中でも「すべて山の中」(島崎藤村)と謳われた木曽路は、妻籠宿、奈良井宿といった宿場町が有名だ。千本格子の家々に軒灯りの旅籠、杉玉を掲げた造り酒屋が軒を連ね、まるで150年前にタイムスリップしたかのような風情が味わえる。

さて、今回は江戸時代の旅人を気取り、ツーリスト気分丸出しで宿場町の民宿に泊まりながらの歩き旅。お楽しみは夜の郷土料理と土地のお酒だ。普段はハードリカーが多いが、こういう時は断然、日本酒。特にこの時期は新酒、つまりこの秋にとれたお米で造ったしぼりたてを味わえる。そんなわけで毎晩、日本酒と郷土料理のペアリングを楽しんだ。例えば妻籠宿では、大妻籠の農家民宿がアイガモ農法の自家栽培米と近くの湧き水で醸したというどぶろくと、木曽の伝統的な漬物、すんきの組み合わせを。大桑村にある須原宿では、地元の造り酒屋によるどぶろく風味の濁り生酒「杣酒」と、冠婚葬祭に出されるという煮込み料理の大平(おおひら)を、といった具合。

すんきというのは、霜が降りた頃、地元で収穫した赤カブの葉に各家庭に伝わるすんき種を仕込んで作られる漬物で、植物性乳酸菌由来の酸味が特徴だ。酸っぱい漬物×どぶろくを「?」と思ったら大間違い、もろみ由来の濃厚な口当たり、どぶろくならではの優しい甘みがすんきに合うのである。ちなみにこのあたりは南木曽という地域になるのだが、南木曽を含む木曽地域は2006年にどぶろく特区となり「木曽どぶろく研究会」を設けている。現在は民宿7軒が加盟しているらしい。

一方の大平はニンジン、シイタケ、ゴボウ、里芋などを刻んで煮込んだお吸い物のような料理。「杣酒」はその名の通り、木曽の山奥で山仕事に従事した杣人に愛されたお酒を再現したもの。あっさりとした煮込みと口当たりのよい辛口のお酒を交互にいただく。

こんな感じで日々、飲み歩き・食べ歩きながら諏訪宿での最終日を迎えた。諏訪のお目立てもやっぱり日本酒。諏訪には「諏訪五蔵」と呼ばれる5つの蔵があり、同じ霧ヶ峰の伏流水を使いながらもそれぞれ個性の異なる日本酒を醸しているのだ。

諏訪湖を中心とした諏訪地方では昔から淡水魚を食べていたそうで、特に鯉料理が有名だ。この日は諏訪五蔵の一つを熱燗でお願いし、鯉のうま煮(甘露煮)と、あらいを酢味噌でいただいた。熱燗を飲んでいてふと思い出したのが、数年前にこの蔵を取材した際、蔵人に家庭料理をふるまっていただいたこと。食卓に並んだのはおなじみの野沢菜や、きのこ、味噌や寒天といった伝統の食材を使った普段着の料理の数々。その時、「土地で造られたお酒は、郷土の味に合うようにできている」ということを教えてもらった。
「日本海沿岸の日本酒は寒ブリやらのどぐろやら、新鮮な魚介類に合うんですよ。一方、長野のお酒はといえば、山菜やらキノコやら漬物やら、滋味深い山の幸とマッチする。同じ水、気候、風土で育ったものだから、同じ傾向の味になるんでしょうね」
なるほど、と納得した。お酒×食の醍醐味って、多分、こんなことなんだ。まだほんの触りしか知らないけれど、こういう楽しみ方を探求できるのが日本酒の面白さなのだろう。

お酒って本当に奥が深いと改めて思い知らされた諏訪宿の夜。こうして2017年も暮れていく。

倉石綾子

女性誌編集部を経てフリーのライター、エディターに。旅、お酒、アウトドアを主軸にした記事を雑誌、ウェブメディアで執筆する。アウトドア×日本の四季× 極上の酒をコンセプトに掲げる酒呑みユニット、SOTONOMOを主宰(facebook.com/sotonomo/)。著書に『東京の夜は世界でいちばん美しい』(uuuUPS)。