毎年、木枯らしが吹くころから春先までお世話になるカクテルがある。トマトジュースをベースにしたホット・カクテルで、ホット・シーザーという。レシピはウォッカ、トマト(tomato)ジュースにハマグリ(clam)エキスを加えた「クラマト(clamato)」ジュース、お好みでタバスコ、ブラックペッパー、それからウスターソースを少々。ウォッカとトマトジュースを使ったブラッディ・メアリーというカクテルがあるが、クラマトジュースに変えるとブラッディ・シーザーに、それを温めるとホット・シーザーになる。ホット・シーザーになると、カクテルというより酔っ払うトマトスープといった趣きだ。

数年前、カナダのプリンスエドワード島へ取材に出かけた時、海岸沿いにある小さな食堂で勧められたのがホット・シーザーだった。ブラッディ・シーザーはもともとカナダのカルガリー(のちに、カルガリーのウェスティン・ホテル発祥と知った)で生まれたカクテルなのだが、寒さの厳しいカナダでは冬のホット・シーザーも定番だという。食堂のおかあさんいわく、「ハマグリエキスが入っているから二日酔い防止になるし、トマトの抗酸化作用のおかげで風邪の引き始めにも効く。うちの子どもたちはみんな、病院へ行く代わりにホット・シーザーを飲んで育った」と、もはや万能薬のような扱い。カナダ人は朝からこれを引っ掛けて身体を温める、とも聞いた。

おかあさんの話は眉唾としても、濃厚で塩味のあるトマトジュースにペッパーとタバスコをピリッと効かせたホット・シーザーは五臓六腑にしみ渡るおいしさで、確かにこの季節にぴったり。以来、冬のマイ定番カクテルの一つになった。自宅で作る時は嵩を増すためにセロリやらニンジンやらを刻み、クラマトジュースに加えて煮込む。スパイシーに味付け、仕上げにウォッカを注ぐ。生のハマグリで出汁をとることもある。もはや単なる「ハマグリ風味ミネストローネのウォッカ割り」で、ホット・シーザーとはかけ離れている気もするのだが、自家製ということでよしとする。スープだと思えば、昼から飲んでも罪悪感を感じずに済むのもありがたい。ここ数年、まったく風邪を引かなくなったのも、この自家製ホット・シーザーのおかげ……と思っている。

というわけで、濃厚なトマトジュースとウォッカがお好きな方におすすめのホット・カクテルでした。

倉石綾子

女性誌編集部を経てフリーのライター、エディターに。旅、お酒、アウトドアを主軸にした記事を雑誌、ウェブメディアで執筆する。アウトドア×日本の四季× 極上の酒をコンセプトに掲げる酒呑みユニット、SOTONOMOを主宰(facebook.com/sotonomo/)。著書に『東京の夜は世界でいちばん美しい』(uuuUPS)。