ニョーヨークはすっきり秋めいてきた。季節の変わり目はなんともしみんりしてしまうものだが、ぼくの住む近所のロウワーイーストサイドも大きな開発が相次いでいて、地域に根付いた趣のある店がどんどんと姿を消していてなんともやるせない気持ちになる。ニョーヨークの地価の高騰に対して、コーヒーを二ドル程度出すようなダイナーなどのビジネスはどうしても厳しい。なかでも、中華街ともほど近い場所にあったCup & Saucer(写真)という店がなくなったのは痛かった。

ダイナーは日本でいうと、喫茶店と居酒屋の間のような場所であると思う。食べるものはアメリカンな朝ごはんやコーヒー程度であるが、お店の人との距離感が居酒屋のカウンターのようである。美味しいものを食べに行く場所ではない。だれでも気軽に入れる二ドルのコーヒーがあるからこそ、そこはその地域にとって開けた特別な場所となるのである。ローカルそうな見た目のダイナーにふらっと入って、そこのカウンターに座っている店の人と話している人をみると、外を歩いているだけではわからなかった街の顔が見えてくる。


ニョーヨーク生活の先輩でもある松尾由貴さんは、「All You Can Eat Press」というマップをつくっており、その一つにニョーヨークのダイナーも紹介したものがある。彼女も、経済原理によって余儀なくされた、変わりゆく街の様子になげいている一人である。ダイナーのように時代を超えて、一つの定点から街と人をつなげていくような機能を新しい店や建物がつくれるのであろうか。都市の一部を計画する、建築家のじぶんにとっても耳の痛い話である。

ニョーヨークにもし来ることがあれば、是非このマップを片手に、古き良き結節点としてのダイナーを巡って欲しい。

http://www.allyoucaneatpress.com/

隈太一

隈太一

建築家。1985年東京都生まれ。2014年シュツットガルト大学マスターコースITECH修了した後に、2016​年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了​。2017年よりアメリカ、ニューヨークの設計事務所勤務。素材の可能性、組み合わせによる空間、場所のデザインを専門とする。代表作に、カーボンファイバーと伸縮性のある膜を用いた、新素材の組み合わせによるパビリオン「Weaving Carbon-fiber Pavilion」、自身が運営するレンタルキッチンスペース「TRAILER」のインテリアデザインなど。

instagram:@taikuma