東京からニューヨークに引っ越してきて、五カ月がたつ。いま、暮らしているのは、マンハッタンの東のはずれ、ブルックリンともほど近い、アルファベットシティと呼ばれるエリアだ。この辺りは、かつては、ドラッグの売買が行われるなど治安が悪く、危険な場所とされていた。しかし、いまでは、飲食店も増え、夜もにぎやかな通りが多い。緑が多いのも特徴的で、通りには街路樹が青々と茂っているし、コミュニティガーデンと呼ばれる、地域で管理する小さな農園も数多く点在する。コミュニティガーデンは普段は鍵がかかっていて、管理者以外は立ち入れないが、街の角々にそういったスペースがあるのは、地域の風通しをよくしている。ブルックリンとの間を流れるEast river parkは、芝生や球技のできるスペースがあり、夏の間は、バーベキューをする人たちでいつもにぎわっていた。Tompkinson Parkと呼ばれる公園では、毎週日曜の朝から、ファーマーズマーケットが行われている。ファーマーズマーケットというとユニオンスクエアのものが有名だが、ここも小規模であるが、日本では見たことのない野菜(原種のトマトなど)が並んでいる。


こうして、小さなネイバーフッド(近所)だけを見ても、東京に生活していたときと比べて、多くの「緑」の要素に囲まれている気がする。もちろん、セントラルパークや、ブルックリンに行けばプロスペクトパークなど大きな公園も存在している。しかし、実際に生活を始めてみると、なかなか電車に乗って、公園を目的に出かけるということもない。窓の外の緑であったり、サンダルで歩いていける距離で手に入る新鮮な野菜だったり、そういう近くの自然があるだけで、いかに生活が豊かになるかという実感をしている最中である。

隈太一

隈太一

建築家。1985年東京都生まれ。2014年シュツットガルト大学マスターコースITECH修了した後に、2016​年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了​。2017年よりアメリカ、ニューヨークの設計事務所勤務。素材の可能性、組み合わせによる空間、場所のデザインを専門とする。代表作に、カーボンファイバーと伸縮性のある膜を用いた、新素材の組み合わせによるパビリオン「Weaving Carbon-fiber Pavilion」、自身が運営するレンタルキッチンスペース「TRAILER」のインテリアデザインなど。

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